第14話
里見が居なくなってしばらくしてから、僕はひとりで夜空観察を再開させた。
里見が引っ越したことは父さんも母さんも知っていた。だから反対されることも禁止されることもなかった。
里見が居たときと同じように、雨の日以外は必ず美浜公園に行って、里見とふたりで見上げていた空を、僕ひとりで見上げた。
里見とふたりで買っていた記録用の紙を僕ひとりで買って、里見とふたりで書いていた月と星を僕ひとりで書いて、里見とふたりで仕上げていたそれを僕ひとりで仕上げた。
毎日。………毎日。
里見。
ずっと里見と一緒にやっていたことを、小さな天球儀を握りながら僕は、ひとりで続けた。
この空の下のどこかに里見が居る。
同じ天球儀を持って、同じ空を見上げている。
そしてどこかで思っている。
果てしない宇宙を前に、こんなにも僕たちははちっぽけだ。
そのちっぽけな僕らの今日という1日は、ちっぽけな僕らと同じようにちっぽけな1日なんだ、と。何てことないよ、って。
家に帰ってその日の記録を仕上げてから、僕は必ず去年はどんなことを書いたんだろう?一昨年は?って、見ていた。
もう日記みたいになっている記録用紙のファイルを開いて、里見との毎日を思い出していた。
このファイルは里見も同じのを持っている。
それぞれが書いて、描いて、お互いの紙にも書いて、描いて、それぞれが持っている。
だからきっと、里見も同じようにしている。
そうだよね?里見。
そんな風にしていないと、里見って、毎日思っていないと、無理だった。ダメだった。歩けなくなりそうだった。止まってしまいそうだった。里見って。
それから、絵。
里見がバカみたいに褒めるから、褒めてくれるから描き始めた絵を、僕はやめなかった。続けた。
部活で、家で、描き続けた。
それが僕にできる数少ないことだった。
里見が居ない毎日に、僕にできることが。
何かあったら空を見上げた。
何かあったら、絵を選んだ。
里見が好きって、唯一はっきりと言ってくれた絵が、僕の道標だった。
描き続ければ、もしかしたら。
里見との毎日はどんどん遠く過ぎ去っていくのに、里見という存在が遠く過ぎ去っていくことは。
………なかった。
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