第11話

「冗談だよ。ばーか」

 

 

 

 

 

 泣きそうな顔をそのまま無理に笑わせて、里見はお風呂の方に行った。

 

 

 

 

 

 まだ、どきどきしていた。

 

 

 

 

 

 うんって。

 

 

 いいよって、言ったら。言ってたら。

 

 

 

 

 

 里見はどうしたの?どうしてたの?

 

 

 

 

 

 キッチンのところから、うちと同じ『お湯張りをします』って無機質なアナウンスが、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 順番にお風呂に入って、ふたりでテレビを観た。

 

 

 里見が録画してるお笑い番組も観た。

 

 

 ソファに並んで。無言で。

 

 

 

 

 

 時間はどんどん夜の深い時間になっていっていた。

 

 

 

 

 

 ふたりだけでの、初めての時間帯。

 

 

 

 

 

「夏目」

「ん?」

 

 

 

 

 

 視線はテレビに向けていた。

 

 

 テレビを観ているふりをしていた。

 

 

 

 

 

「ベランダ行こ」

「ベランダ?」

「星」

「………うん」

 

 

 

 

 

 里見が住んでいたのは、メゾネットタイプの、中は普通の2階建ての家みたいなマンション。

 

 

 里見がテレビを消して、2階に上がる。

 

 

 僕もそれについていく。

 

 

 

 

 

 階段を上がると、広めの部屋がふたつ。

 

 

 そのひとつが里見の部屋で、ベランダは里見の部屋の窓の向こう側。

 

 

 

 

 

 部屋の電気はつけず、ベランダに出た。

 

 

 

 

 

「公園の方が見えるな」

「そうだね」

 

 

 

 

 

 家やお店があんまりない海岸沿いの美浜公園は、一等星の間に見える暗い星も結構見える。

 

 

 けど、ここからは、さすがにそこまでは。

 

 

 

 

 

「でも、都会に比べたら全然見えるんじゃない?東京は星が見えないとか言うじゃん。………って、行ったことないから知らないけど」

「来年の修学旅行で行くんじゃなかった?」

「そうだね。本当に見えないのか見てみたいなあ」

 

 

 

 

 

 そして僕たちはしばらく、深夜の星を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、天球儀が欲しい」

 

 

 

 

 

 部屋に戻って一旦1階に降りて、歯磨きをしてから戻った里見の部屋。

 

 

 里見はベッドに座ってて、僕は敷いてくれた布団に座って、そういえば里見もうすぐ誕生日じゃない?って話からの、欲しいもので、里見が言った。

 

 

 

 

 

「一応親にリクエストした」

「中2で誕プレに天球儀って、渋すぎじゃない?」

「そうか?」

「そうだよ。何で天球儀?」

 

 

 

 

 

 天球儀って言ったら、よく知らないけど地球と星の動きを外側から見ることができるやつ、だよね?

 

 

 たくさんリングがあって、その中心に地球がある。

 

 

 

 

 

 小学生の頃、どこかで見て動かしたことがあるけど、当時の僕には難しくてよくわからなかった。

 

 

 

 

 

 今ならもう少し、その意味が分かるのかな。

 

 

 

 

 

「天球儀見て宇宙を考えたら、俺って小さいなって思えるじゃん」

「どういうこと?」

 

 

 

 

 

 聞いた僕に、里見は答えなかった。

 

 

 答えずに、寝よって。

 

 

 

 

 

「夏目のが近いから電気消して」

「………うん」

 

 

 

 

 

 どうしたの?どうかしたの?って思いながらも、僕は電気を消そうと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 そのとき、だった。

 

 

 

 

 

「………っ」

 

 

 

 

 

 

 電気を消したタイミング。

 

 

 

 

 

 僕は。

 

 

 僕、は。

 

 

 

 

 

 その日初めて、里見に。

 

 

 

 

 

 ………抱き締め、られた。

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