第10話
土曜日。
いつもと同じぐらいの時間に里見の家に行った。
いつもと同じ。でも違うのは。
荷物。
僕はいつもより大きいバッグに、パジャマや着替え、洗面道具を持って来ていた。
………里見の家に泊まるために。
里見はいつも通りに見えるのに、僕は変にどきどきして、緊張していた。
それが里見にバレるんじゃないかと、更にどきどきして、緊張した。
「里見って料理できるんだ」
美浜公園でもいつも通り、今日の月と星を記録して、いつもならそのまま家に帰るのを、いつも通りじゃなく里見のうちに戻ると、里見がカレーなって言いながら準備をし始めた。
驚いた。
「カレーは料理のうちに入らない」
「え、そうなの⁉︎」
「切って煮てルー入れるだけだろ」
「………確かにそうだけど」
里見が手際よく野菜を洗って皮をむいて切っていく。
僕がやったらどれだけ時間があっても足りなさそうなそれを、里見は見事なぐらいあっという間にやった。
「里見って何気に器用だよね」
「夏目は何気に不器用だよな」
できた里見のカレーは、美味しかった。
「風呂、一緒に入る?」
「は⁉︎」
カレーを食べ過ぎてだらしなく伸びてたら、ものすごく真面目に聞かれて、そこでまた驚いた。
今日は驚いてばかりのような気がする。
さっきも、これぐらい食べれるだろって、超大盛りにされたカレー。
里見も同じぐらいだったのに、里見はまさかのおかわりまでした。
里見ってそんなに食べるの?って驚いたばかり。
しかも里見はおかわりしたのに全然普通で、おかわりをしていない僕の方が、お腹いっぱいすぎて食べ終わったお皿を流しに持って行けないぐらい動けない。
何で動けるんだよお前って、言ってたら。風呂って。
そこに、里見が。一緒に風呂って。
「そんな驚く?」
「驚くよ‼︎そしてイヤだよ‼︎」
「何で?」
「恥ずかしいじゃん‼︎」
「それこそキャンプとか修学旅行で一緒に入ってるし、プールもだけど」
「それはそれ‼︎これはこれ‼︎」
みんなと一緒ならいいけど、平気だけど、意識したこともないけど、ふたりで。ふたりでお風呂、なんて。
毎日………って、今日はしてないけど、キスしてるのに、お風呂って。
「………お前、何か変なこと考えてる?」
「へっ…変なことって何⁉︎」
「お前が考えてること」
「考えてないよ‼︎」
「そう?」
「考えてない‼︎」
言えば言うほど嘘って自分でも分かって、里見にも分かるのに、僕は全力で否定した。
だって、そうしないと。
全力で、否定しないと。
「しないよ」
「え?」
「………しない。何も」
そう言って里見は。
そう言いながら。
泣きそうな顔をした。
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