第4話

 特に習いごとをしていなかった僕と里見は、夜空観察で平日はもちろん、土日も祝日も、とにかく1週間まるっと毎日会っていた。

 

 

 天気が悪い日は見えないから行かなくていいことになっていたのに、雨さえ降っていなければ行っていた。僕も里見も。

 

 

 もしかしたら、星は見えなくても雲間から月ぐらい見えるんじゃないかって。

 

 

 だから本当にほぼ毎日。

 

 

 

 

 

 最初の1週間、10分ぐらい前に美浜公園について、10分間無言。

 

 

 公園の時計の17時半に月と周辺の星と目印をやっぱり無言で描いて、じゃあって帰った。

 

 

 

 

 

 何も喋らなかった。

 

 

 

 

 

 でも1週間経った頃には、さすがに話すようになって。

 

 

 

 

 

 里見って呼んでいい?

 

 

 うん。

 

 

 俺は?

 

 

 夏目でいいよ。

 

 

 ごめん、下の名前何だっけ?

 

 

 真澄。

 

 

 真澄?

 

 

 真澄。女子みたいでしょ?

 

 

 ………うん。って、俺もだけど。

 

 

 うん。そうだね。一緒だね。

 

 

 

 

 

 ぼそぼそ。

 

 

 ぽつぽつ。

 

 

 

 

 

 里見と話すときは、いつもそんな感じだった。

 

 

 最初から。

 

 

 8年前、に、最後に会ったその日まで。

 

 

 

 

 

 ぼそぼそ。

 

 

 ぽつぽつ。

 

 

 

 

 

 毎日会って、1ヶ月、毎日のように会っていて。教室でもふたりで居ることがどんどん増えた。

 

 

 

 

 

 里見は他の、クラスの男子たちより、学校の男子たちより落ち着いていて、話し方も。大きな声を出したりしないから、急にテンションが上がって騒いだりしないから、多分耳のことだけでなく、もちろん静かを選んで慣れているせいもあるけど、静かな方が好きな僕には、すごく心地好い存在だった。

 

 

 

 

 

 だから僕は初めて言った。

 

 

 初めて自分から言った。里見にならいいかなって。

 

 

 

 

 

 風が冷たい、10月の終わり。夜空観察がもう終わる10月の終わりに。

 

 

 

 

 

「僕、左耳が聞こえないんだ」

 

 

 

 

 

 その日から里見は、僕の右側にしか立たなくなった。

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