第2話

 里見が転入してきたのは僕が四年生の2学期の始め。夏休み終わり。

 

 

 

 

 

 僕が通っていた小学校は1学年に2クラスずつしかない小さな学校。

 

 

 そこに来た里見。転入生。

 

 

 クラスの子たちが男女問わず日にやけて黒いのに、先生に連れられて教室に入ってきた里見は色白だった。

 

 

 色白で背が高くて、それまで学年で一番かっこいいなんて言われてた隣のクラスの男子より全然かっこよくて、女子からは悲鳴があがり、男子はやっかんだ。

 

 

 さらにいいのか悪いのか、後で知ることになるけど、里見は運動神経が抜群な上に、成績もよかった。

 

 

 

 

 

 だからだと思う。

 

 

 

 

 

 名前。

 

 

 千裕ちひろって名前を、からかって。からかわれて。男子に。

 

 

 

 

 

 まだ小学生の幼稚な考えではそれぐらいしかなかったんだろう。敵わない相手に言えることが。

 

 

 

 

 

 僕はというと、クラスでは目立つ方じゃなくて。むしろ逆。

 

 

 僕は休み時間になると図書室でひとり、本を読んでいた。

 

 

 それは昔から。

 

 

 

 

 

 少人数の小さな学校で、入学したときからそうしていた僕は、そういうやつなんだってまわりの認識で、ひっそりとクラスにとけこんでいた。まったく目立つことなく。

 

 

 

 

 

 ただ、そうしていた理由が僕にはあって、それはクラスメイトの誰も知らないことだった。先生にしか言ってないことだった。

 

 

 

 

 

 耳。

 

 

 

 

 

 僕は生まれつき、左の耳が聞こえなかった。

 

 

 一側ろう、一側性難聴っていう先天性の。

 

 

 

 

 

 右側は聞こえるから普通に普通の学校に通っていた。

 

 

 でも、左側から声をかけられても聞こえないし、賑やかな場所では聞き取り辛いし、聞こえる右耳も疲れる。

 

 

 

 

 

 小学生時代の休み時間が、僕には一番つらいものだった。

 

 

 

 

 

 だから、静かな図書室は授業中以外の学校内で唯一ほっとできる場所で、僕は長い休み時間はほとんど図書室にいたし、朝や短い休み時間で図書室に行けなくても、本を読んでいれば話しかけられることもあまりなかったから。だから好んでそうしていた。

 

 

 

 

 

 そこに里見が。

 

 

 そんな僕の視界に。

 

 

 

 

 

 居るように、なった。

 

 

 

 

 

 里見は女子に囲まれることはあっても、僕とは違う意味で男子とはずっと距離があった。

 

 

 僕と違うことと言えば、グループを作るとき、僕は呼んでくれる幼稚園から一緒のクラスメイトがいたけど、里見は。

 

 

 里見には誰も、居なかった。

 

 

 

 

 

 四年生の長い休み時間は、僕ぐらいしか教室には居ない。

 

 

 里見が転入してくるまで、は。

 

 

 

 

 

 里見が来てからの教室は、僕と里見の、ふたりに、なった。

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