第8章第034話 アライさんの親戚と火縄銃
第8章第034話 アライさんの親戚と火縄銃
・Side:ツキシマ・レイコ
アライさんを連れ去ろうとして、あまつさえセレブロさんを狙撃したこのラクーンの一団。
話を聞くに…と言っても、すでに動機は全部話してくれていましたけど。アライさんがネイルコードで奴隷としてこき使われていたと思い込んでいたようで。
射手曰く。狙撃については、最初はあくまでもしもの時のための準備だったけど。一団のトップであるコクウェン・オッパー・モンセという人、この島に駐留しているラクーンの国の軍隊の司令だそうですが。この人の護衛のカラックという人が投げ飛ばされたのと、セレブロさんが臨戦態勢になったのを見て、動転して撃ってしまったとのこと。
『最初から説明しますから、きちんと聞いてください』
正座で並んでいる一団に、アライさんが懇切丁寧に経緯を説明します。
船が遭難して、南の島で捕まって、いろいろ売られて正教国の商会の前で過ごしていたところまでの説明では、『ほれ見ろ事実じゃ無いか!』的な感じで騒いでいましたが。ネイルコードに来てからは、奴隷では無く普通に給金をもらって労働していただけで。食堂では、見世物では無く単に懇意にしてくれている人が多かっただけだと「本人」から説明されれば、もう納得するしかありません。
実際、アライさんを送り届けるために遙々海を越えてアライさんを連れてきたというのも事実ですしね。しかもネイルコードの最新船でですよ。
アライさんはあと、ハルカちゃん、ウマニ君、ベールちゃん、ターダ君がいかにかわいいかを延々と。…ラクーン達でも足がしびれるんですね。
ちなみに。ここに来る前に聞いたのですが、アライさんはこの租借地については知らなかったそうです。
セイホウ王国がアライさんの出身国と交流があることが周知されていたら、もっと早く対応していたのですが。
ここからもっと東の島にロトリーの港がある島があるそうですが、資格がないものが行けるのはそこまでだそうで。
ネールビンソン島にもけっこう人口は多そうですが。軍属ばかり?
さて。このラクーン達をどうしたもんだと思っていると。別のラクーンの集団がやってきました。
『…あれはもしかして、カララクルおばさまっ?』
先頭のラクーンの方。最初の一団よりはちょっと細い感じですか、何より模様がアライグマ系です。
「ネイルコートのみなさま、ネールひンソン島へようこそ。この島の代表をしているカララクル・クックエル・ロトリーともうします」
おお。人の言葉を話しています。しゃべり方はアライさんと似た感じですね。
しかもファミリーネームが"ロトリー"です。もしかしてラクーンの国のお偉いさんでもあります?
『キュルックル、無事で何よりでした。セイホウ王国からあなたが無事だという知らせがあって心待ちにしていたのですが…なんですか?この騒きは』
コクウェンさんが口を開く前に、アライさんが状況を説明します。…ラクーンも怒ると眉間にしわ寄るんですね。
『ネイルコーと国からの皆様は、領事館にお迎えする段取りだったはずですが。こんなところで何をしているのかしら? コクウェン司令』
『いえ…カララクル様っ。あの…その…キュルックル様を奴隷として拘束していた"人"共に誅罰をと…』
様? カララクルさんをおばさまと呼んでいたから、お偉いさんの親戚なんだろうけど。
『奴隷をわざわざ長延な航海で送り届けるとでも? 憤るにしてもまずは事情を聞いてからと申しつけたはずです』
『しかし!実際に縄に繋がれていたとご本人も! それに、ハーティーまで連れてきているではないですか! 我らに害意があるのは明白!』
クウェンさんはまだ納得していないようですが。喧々諤々している間、アライさんにいろいろ教えてもらいます。
ハーティーというのは、もともとロトリーが住んでいた大陸…東の帝国の南にある、地球で言えば南米みたいなものでしょうかね? そこに生息しているロトリーの天敵とも言える肉食動物だそうで。柵や壁で防ぐにも限界があり。大勢が犠牲になっていたそうです。この辺は、昔のユルガルムと北からの魔獣の関係と同じでしょうか。そのハーティーのイメージは、まんまセレブロさんかバール君だそうです。狼に似た生き物なのでしょう。
そういえばアライさんは、集落では子供達はまとめて育てられたと言っていましたが。こういうのも原因だったのかも知れません。家毎ではなく村や町単位の皆で防衛していた名残なのでしょう。
そういう状況でロトリーは、その天敵の圧力から北上政策を始め。その結果として、東の帝国の跡地にたどり着いたそうです。もう千年近く前の話だそうで。
アライさんは、このハーティーは見たことは無いそうですが、最初にセレブロさんを見たときにはビックリしたそうです。ただ、子供であるマーリアちゃんに従っていたことから、さほど怖がらずに済んだそうです。
アライさんが、セレブロさんに抱きつきます。
『ヒッ』とビックリしているラクーンの方々。そんな彼らを尻目に、セレブロさんもアライさんにスリスリします。
『皆さんがハーティーを恐れているのは理解しますが。セレふロさんはそんな猛獣とは違います。私は三年間この子と暮らしてきましたが。危険だと感じたことはありませんよ。それに私が繋がれていた商店の事は、この方々とは別の国での話です』
アライさんの出自については、カララクルさんから説明がありました。
カララクル・クックエル・ロトリー、ロトリーという名前がついていることからも想像できますが。王族の名前だそうです。
とはいえ、カララクルさんは現王の叔母の子の上、直系からは離れるので、王位継承権は無いそうですが。アライさんはさらにカララクルさんの姪にあたるそうです。
…王様からは五等親離れているのかな? まぁ親族に王族がいるって程度の立ち位置ですか。
アライさんの本名はキュルックル・キャルクー・ロトリー。ただ、キャルクーが事実上の家名で、ロトリーの名は普段は使わず。王族ではなく、せいぜい関係者という意味だそうです。
カララクルさんの場合は、この島で一番偉い人ということで、五等親ながら外交的にロトリーを名乗っているそうです。
「レイコ。それ、アライさんってお姫様ってこと?」
カララクルさんから聞いた話を、皆に説明しました。
「ひゃー。王族の親戚の貴族の、さらに親戚なのて。権力とかはさっぱりてす。たから私も、海運てはたらいていたのてす」
王族が親族とはいえここまで等親が離れていれば、ネイルコードでもせいぜい領庁で文官に収まっているくらいで、功績によっては男爵位を貰えるくらいというところですか。
ラクーンでも似たような感じですね。
『クウェン。この方々とキュルックルに関しては、誤解していたことは理解しましたか?』
『く…はい…』
『本国で一番危惧しているのは、"人"社会との衝突です。"人"を知り、それを防ぐためのこの島でもあります。その場所で"人"に攻撃するどころか、機密だった火筒まで使うとは… あなたの駐留軍司令の職権を停止し、本国に送還します。官舎で謹慎しているように』
『く…承りました』
観念した感じのコクウェンさん。まぁ国交がないネイルコードとはいえ、他国の使節に誤解で暴力振るおうとしたのなら、責任問題とはなるでしょうね。あと火筒とやらの武器ですか…
「誤解かあったとはいえ、重なる失礼、お詫び申しあけます」
「カララクルさん、私たちの言葉を話せるんですね」
「この島は人との唯一の交流点てすから。私を含め、けっこうな人数か喋れますよ」
「…私も外交官のトップとして、ラクーン…ロトリー語を話せるようにならないと行けないんでしょうかね?」
ネタリア外相、頑張ってください。結構難しそうですよ。
「ネイルコードとしては、アライ殿を賓客と認め、できうる限りの配慮をするよう決めております。今回の渡航にしても、アライさんをロトリー国に実際に帰すかどうかは、アライ殿次第ではあるのですが。まずは、アライ殿が再度ネイルコードに来たいと思った場合、両国間の渡航の自由を保障して欲しいのです」
カララクルさんは完全に聞き取れているか怪しかったので。念のため、私がロトリー語に通訳しました。
王族の近親者とは知らなかったとは言え、アライさんを国として丁重に扱ったのは幸いでしたね。
「ありかとうこさいますレイコ殿。キュルックルの扱いについてはネイルコーとに感謝を申し上けます。たた、今後の去就については、さすかに本国の許可が必要てす。ここでは即答は出来ないのてすか」
どうしたもんだと、ネタリア外相に聞こうかと思ったところ。
船団のオレク司令が、聞いてきました。
「レイコ殿。その鉄の筒はやはり武器なんでしょうか?」
握りつぶした鉄砲、私がまだ持ってました。まんま火縄銃ですね。
手で受け止めた弾、多分鉛ですか。それをオレク司令に見せます。
「爆発でこの筒からこれを撃ち出す武器ですね。距離にも寄りますが、板金の鎧も貫通します。まだ初歩的な物ですけど、数を揃えるとけっこうな脅威です」
こちらの世界にも硝石があることは、ユルガルムでいろいろ鉱石サンプルを見せてもらったときに気がついていましたが。どうにも戦争の泥沼化や被害の拡大をもたらしそうで、火薬については黙っていました。
鉄砲の原理について説明していると、カララクルさんが驚いていますね。なぜ知っているんだという感じです。
「あのレイコ殿…てきればその火筒はこ返却願いたいのてすか…」
カララクルさんが申し訳なさそうに要求します。
『返すのは良いですけど。どうしてロトリーがこの武器を持っているのか教えて貰えますか?』
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