第8章第021話 航海その1
済みません。ちと二週ほど療養していました。
予後にもいろいろ追加で診療がありまして。たまにお休みすることになりそうです。
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第8章第021話 航海その1
・Side:ツキシマ・レイコ
セイホウ王国へ向けてエイゼル港を出港して早二週間。一回嵐に遭遇しましたが、航海そのものは順調です。
海の上ともなると、ダレないためにも毎日のルーティーンが大切になります。
朝は鐘と共に起床。夜当直の人たちは就寝の準備に入ります。その間に手空きの船員は甲板で体操。軍でも流行ってしまったラジオ体操ですね。
当直組の朝食と交代で朝食を取ったら。乗組員の人たちは、清掃やら整備やら帆の調節やらに忙しく動きます。
「小竜神様!朝の偵察に出発ーっ!」
「「「おおおおっっ!!」」」
朝一と夕方、天候によってはさらに昼と。レッドさんが偵察に飛んでくれます。
手空きの船員さんが見学している中、船舷からレイコカタパルト! 青白い光を残してスーと上昇していきます。
…これも毎日のルーチンですが。娯楽の少ない船員さんには丁度良いみたいです。ネタリア外相もしっかり見学、なにか参考になりますか?
知られた航路とはいえ、道中はけっこう南北に逸れますので。未発見の島や環礁の発見とか、さらに可能性は低いですが遭難した船の探索も請け負いますが、主な目的は気象観測です。低い雲より上に上り、積乱雲や前線の有無を確認します。
蒸気船とはいえ風は追い風に越したことはないですし、嵐も避けたいですからね。半日で進める距離は二〇〇キロメートルほど。一日二回の高空からの観測なら、その範囲くらいの天気は把握できます。…とレッドさんが言っています。レッドさんにはご苦労様なことですが。「いい気分転換」と言ってくれています。
戻ってきたら、海図室でだいたいの雲の位置を報告して、半日分の航路を決定。手旗信号で僚船に伝えます。今日はそのまま直進で問題無いようですね。
先日の嵐も、影響の少ない航路を取ることが出来たので、船長さんは「楽だった」と言ってくれましたが。…結構、いや相当揺れましたよ。
私は平気でしたけど、マーリアちゃんがちょっとグロッキーでした。ずっとセレブロさんの上にうつ伏せになっていました。
アライさんは平気なんですね。さすが船員の経験があります。
ネタリア外相は、嵐の間は調理室でずっと立っていたそうです。船の真ん中の方が、比較的ではありますが揺れは少ないですからね。料理番の船員さんが、立っていられるだけ相当穏やかな嵐だな…と言っていたそうですが。
嵐の間は帆走は難しいですが。蒸気機関があるので、波に対して艦首が向くように向きを変える事が出来たそうで。それが比較的揺れが穏やかになった理由だと艦長が説明してくれました。
昼間は、セレブロさんはだいたい非番の船員に甲板で遊んで貰っていることが多いです。
巨大な銀狼ということで、最初は本当びびられていましたけどね。今では、ブラッシングに立候補する人もいるくらいです。
船員さんの戦闘訓練として木刀で試合しているところに乱入して、セレブロさんが木刀咥えて船員さんが引っ張る…という遊びがお気に入りのようです。牛より大きいくらいのセレブロさんですからね、本気でやれば振り回せられるんでしょうけど。ニコニコ顔の日焼け筋肉に囲まれたセレブロさん…ちょっとシュールかも。
日焼けと言えば。マーリアちゃんも結構日に焼けてきました。アルピノだから気をつけないと…と思っていたのですが。普通に日焼けしますよこの娘。まぁ小麦色になるまで日に当たることはないですし、日影を好んでいますが。袖めくるとそこそこ焼けています。健康的でよろしいのでは無いかと。
まぶしいのも人並みに平気だそうです。…もともとエルセニムはユルガルムと同じくらい冬が厳しいところだそうなので。雪目に弱かったら、そりゃ大変です。
アライさんは、侍従さんに混ざって士官室の掃除やら洗濯やらを率先してやっています。本来の侍従さんたちは恐縮しているのですが。長い航海、何もしない方が辛いとのこと。
たまに船員さんとマストに昇る競争をしています。アライさんの足は、靴を脱げばロープを握るくらいは出来ますし、握力も強いので、スルスル~と昇っていくんですよね。船員さんもトップの人はなかなかの速度。見張り台までの競争です。
私はというと。非番の船員さん相手にミニ教室を開いています。
中央マストのすぐ後ろの甲板にキッチンがあるのですが。そこの壁に黒板がありまして。本来は作業メモ用なのですが、これをつかって質問に答える形でいろいろ講義をしています。
まぁ風がなぜ吹くのか。海はどれだけ深いのか。月や太陽の大きさや距離。船乗りに役立ちそうな雑学を徒然となく。特に先生と生徒というわけではなく自由参加ですので。船長さんもたまに覗きに来ていますね。
昼食夕飯時には、キッチンも手伝いますよ。たまに、冷凍庫から出したお肉の解凍とかもしています。
冷凍庫は作られるようになりましたが、さすがに電子レンジはマナでは再現不可能です。…マグネトロンの原理までは説明できませんよ私。
私の船室は、マーリアちゃんとセレブロさんとアライさんと同室。セレブロさんが入るとかなり狭くなりますが、寝る分にはむしろモフモフです。呼吸するセレブロさんにもたれていると、揺れる船もさほど気になりません。
夏ですので結構暑いか?と思っていたのですが。昼間はそこそこ暑いですが、海上は風通しが良いのでそこまで辛くはありませんし。夜はむしろ涼しいくらいですね。
「レイコ殿、この米というやつ、皆の飯に使ってしまって良かったんですか? レイコ殿の好物だって聞いてますけど」
「私だけ違う物食べても悪いし。セイホウ王国に着けばまた仕入れられるし。目新しい料理は長い航海ではうれしいでしょ?」
今日は昼食の準備のお手伝いです。
今回、船にはお米も積まれています。そもそもセイホウ王国から入ってきたものなので、輸出品というわけではなく。私に気を使って積んでくれたのですが。船の料理番の人は、米を扱ったことがないということで、私と何か作ってみようということになりました。
ただまぁ、難点がお米の研ぎでして。研がないと食べられないわけではありませんが、捨てる水に真水を使うのももったいなく。
ということで、米を海水で洗って水で炊くことになりましたので、その塩気を利用できる料理にしてみました。
積んでいる鳥が卵産んだので。となればチャーハン作るよ!ですよ。
結構な大きさの鍋に、獣脂を熱して脂を出し、それで細かく刻んだ肉とニンニク風味のタマネギを炒め。溶いた卵を投入して軽く火を通したら、炊いたご飯を突っ込む。米と油と卵をなじませつつほぐしたら、塩と香辛料で味を調えて香味野菜を混ぜ。最後に周囲に醤油を一垂らし。
料理番に一口味見を勧めます。
「これは美味いですな…ガツガツ行けそうです。煮た穀物だから、麦粥みたいにべしゃっとしているかと思ったのですが、思いのほかしっかりと食いでがあります。こりゃ野郎共にも受けますよ」
「煮るのではなく"炊く"っていうんですけどね」
「"たく"ですか?」
こちらには"炊く"の適当な単語がないので、いまいち伝わりませんか。
"ご飯とおかず"という日本食の形式がなじむのには、まだ時間がかかるでしょうし。味の付いていない米を出されて喜んで食べるのって、ファルリード亭でも私くらいだしなぁ… 最低でも、具を入れたおにぎりからですね。
ともかく今はチャーハンの量産。一度に四合ほど、大盛り五人分ずつくらい作って、出来たチャーハンは待っている人にどんどん盛り付けますよ。スープと冷凍の果物が付きます。
隣のコンロで料理番の人もトライしてます。ガスコンロみたいに火が吹き出るタイプではなく、マナコンロですので。揺すった方が良いですかね。火力はそこそこありますが。
まぁ、こだわる人の高みは高いかもですが、基本は炊いたご飯を炒めて混ぜるだけですから。定番になると良いですね。
他にも船上でできそうなメニューということで、次の機会には炊き込みご飯でも作りましょう。週一で船員さん達に振る舞えるくらいの量の米は積んであります。
航海三週目。島が見えてきました。
島と言っても目的地では無く。噴火した気配は無く緑に覆われていますが、山の形からして典型的な火山島ですねあれは。幅二キロメートルも無いんじゃないかしら?
「今回は必要ないですが、あそこでは多少の水は補給できますので。セイホウ王国への航路の目印にしています」
船団は、この島の近くで一泊します。同時に、船の間で船員さんの入れ替えなんかもします。まぁいろいろ評価やら相性やら気分転換で異動させるそうですが。
料理番の人も、それぞれ他の二隻の料理番と交代です。
「向こうにも米は積んでありますからね。米料理、広めてきますよ」
ちょっと寂しいですね。とはいえ、セイホウ王国でまた会えるのですが。
これでまた、チャーハン作りを教えることになりそうです。
上陸隊がカッターで島に向かいます。
遭難者が流れ着いていないか、念のための確認だそうです。今まで救助に至ったことはないそうですが、あくまで念のため。
「遭難者の対応は海の漢としての義務ですな。明日は我が身です」
とは船長さんの談。
浜辺の目立つところの岩陰に、ナイフや鉈、ロープに火打ち石、釣り竿や銛のような基本的サバイバルグッズを入れた箱を置いてあるそうで、それらが使われた形跡が無いかも確認してきます。もし使った形跡があるのなら、島の捜索もしなければなりません。
この島へは、風の都合で行きと帰りのどちらかでしか寄れないそうですが、大陸語とセイホウ王国語の両方でその辺のことを書いた板も置いてあります。少なくとも年に一回の頻度で船が寄るのなら、それは遭難者にとっては生きる希望になるでしょう。
日本の南硫黄島のエピソードを思い出しました。
「船長。近くに似たような島はあるんですか?」
私が気になったのは、この島が火山というところです。山頂近くまで森になってることから、最近に噴火した形跡はないようですが。
海底図形まではさすがに把握していませんが。ハワイのような大洋の真ん中にあるような火山なら、プレートが移動しても同じようなところで噴火しますが。海溝の様なプレートがぶつかるところの火山は、並んでいくつも形成されるのが普通です。小笠原諸島とかがそんな感じですね。
「ずっと北の方にここより小さい島があるというのは、海図に載っていますね。島と言うよりほとんど岩なので水も無く、漂着しても生きて行くのは難しいと思いますが。あと、南の方向には、南航路に至るまでにいくつか似たような島が点在しているようです」
セイホウ王国への遠回りコースの島々ですね。ここからは結構な距離があるはずです
やはり、海溝側の火山列島ですかね?
「この島、どう見ても火山ですが。こういう火山って並んでいるもんなんです。他には噴火している島とかはないんですか?」
「南航路に近い島で、十年ほど前に噴火した記録があるそうです」
とは、カラサームさんの言。
「正教国に行くときの航海で、いろいろ話を聞きました。今はせいぜい煙を噴いている程度だそうですが」
「危険なんですか?レイコ殿」
「とんでもない大爆発することもありますし。もし船の下で爆発が起きて巻き込まれたら、助からないでしょうね」
南太平洋の火山の大規模爆発は、遠い所なだけに日本では余り話題になりませんでしたが。日本で起きたら大惨事というような規模の噴火は珍しくありませんでした。
「予兆のような物はあるんでしょうか?」
「基本は地震とかで調べたいところですが、海の上ではいかんともしがたいです。山から蒸気を吹き出したりとか、海水が濁ったりが予兆となります。そういう島や海域には、近づかないくらいでしょうか」
「ふむ。航海日誌に記録を残しておきましょう。周知した方が良さそうですな」
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