第6章第002話 土地買ってマイホーム建てるよ

第6章第002話 土地買ってマイホーム建てるよ


 さて。ギルドに預金残高を聞いてびっくり。

 まぁ長い人生、お金に余裕があるに越したことはありませんが、ちと急に貯まりすぎです。

 …とはいえ、何にお金使えば良いかというとこの世界では使い道にも限りがあります。…でかいお金の使い方…家を買うしかありませんね。


 ちなみに。孤児院とかへ寄付…ってのも考えましたけど。

 アイリさん曰く


 「孤児院は、贅沢が出来るほどではないけど、生きるのに困らない程度の手当は領からいただいているし。それ以上が欲しいのなら、自分で働いて稼ぐことを学ばないとね」


 ごもっともです。

 病院…治療院も、現状で不足は無いそうです。…まぁ医療レベル的に入院施設を増やしたところで…と言うのもありますし。こういうのは継続的な研究と施政が大切であって一時的なお金はあまり良くないですし、私の資産が多いと言っても国の予算から見ればさほどでもない…だそうです。むしろ、いつぞやの消毒薬のような医学に関する知識の方がよほどありがたいだろうとのこと。

 テオーガル領での醸造所も拡大され、移管された蒸留所で消毒用アルコールの量産も拡大しつつありまして。軍医の教育も広まりつつあり、各街の治療師にはその軍医から広められるという形で普及しつつあります。

 傷口の縫合も合わせて、傷から悪化するという事例は劇的に減ったそうです。



 新ファルリード亭の方は、元ギルド舎を改造する形となりましが。カヤンさん曰く、元馬車留や訓練場などの空いた土地にも部屋を増設したり、食堂も拡張を計画しているそうです。

 カリッシュ祭司のやらかしたことに対しての賠償金は正教国から出ていますし、カヤンさんもレシピ関係の奉納では権利を持っていますので、収入がいろいろ入ってきます。また、いろいろあって元ギルド舎は安く譲って貰えたそうで、もろもろの費用もなんとかなりそうだとのことです。


 「この空いたところ、銭湯とか作れないかな?」


 「銭湯?」


 「お金取って入って貰う風呂のことね。まぁマナ板あるのなら、各家にお風呂を普及させるのは出来るでしょうけど。でかいお風呂ってのもいいものよ」


 湯船で脚が伸ばせるだけで、だいぶ違うのですよ。


 「ああ。レイコちゃんが河辺で作ってくれた感じのやつね。あれが毎日入れるってこと?」


 河原で作った即席銭湯…最後は去年の秋だったかな。なんかもう懐かしいですね。


 「あと、お風呂から出たらのんびりお酒と食事を楽しめるようにするとか、そういうのをセットで提供する施設ってことね。ただ、ファルリード亭と一緒の店だとすると店側の負担がでかいかな? 併設している別のお店ってことにした方が良いかも」


 宿の客しか銭湯に入れないんじゃ銭湯側の客が増えない感じもしますので、銭湯は別施設扱いにした方が良いでしょう。

 ただ。湯船やら給排水に給湯器。換気空調に照明とか。実現できるのか、実現するのに何が必要なのか、考えないといけないことが結構多いですね。この辺もマルタリクの職人さんと要検討です。


 ジャック会頭が、旧ギルドの施設図を持ってきてくれました。敷地の総面積は、ギルド舎その物の五倍くらいありますね。

 ギルド舎の隣には、キャラバンの馬留。裏は小高い丘になっていて、元々訓練場はそこにありました。整地済みってのがありがたいです。


 「そういうことなら。食堂も広げない?」


 アイリさんが提案してきます。

 気に入ったメニューが食べたくても、奉納の関係で出している店数が少ない現状、同じメニューは日替わりでまた出てくるのを待つこととなりがちで。次はいつ食べられるのか?…という不満が結構出ているそうなのです。…その不満を洩らす客には、アイリさんも含まれるんだろうな。

 だったら、ジャンルでまとめた店を併設してしまえっ!…て事ですね。要はフードコートですか? 良いですね。


 当たり前ではありますが、旧ファルリード亭の周囲にも、他の食堂や宿屋はありまして、客の入りについての格差が問題になってきてました。レシピを格安か無償で提供するなどして不満が出ない程度には凌いできましたが。ファルリード亭自体がでかくなるのなら、もう従業員などのリソースを丸ごと取り込んでしまえ…ってことですね。

 もちろん料理することの訓練は必要ですが、提供してきたレシピはだいたい再現できているようですし。中華やイタリアン、さらにスイーツ系を別の店としてしまえば、もろもろ解消できそうです。


 「ああ…いつでもアレとかソレとかが食べられる…素晴らしいけど…レイコちゃんのせい、レイコちゃんのせい」


 ダイエットの責任までは持ちませんよ。

 …銭湯に併設してエステの経営とかも良いかもしれませんけど。私自身はお世話になっていなかったので、大して詳しくないのですよ。痩せたいのなら、運動した方が良いと思いますけどね。




 さて。早速ギルドから新ファルリード亭の方に戻りまして、カヤンさんらとお話し合いです。

 先に、新ファルリード亭の拡充計画。既存の宿屋を吸収しての拡充。隣接しての銭湯開設。これらを説明します。

 複数の食堂宿屋を吸収することになりますが、問題になるのが経営の仕方。地球で言うところの株式会社の形式をとる…という話をタロウさんがしています。各食堂宿屋には、投資の形で資金提供してもらって。その投資額によって利益配分するってやり方ですね。

 っと。従業員や元宿屋の主人達の家、うーんアパートの形ですかね?、これも作らないといけないですね。


 人材は従業員として雇われて給料がきちんと出るとして。それぞれが新ファルリード亭に出資して、宿の利益はその出資額によって配分されます。私も一口と言わず乗りますよ。

 銭湯の方も、この株式会社の傘下として開設されます。一種のホールディングですかね?


 「じゃあ、そこの会頭はアイリでいいな」


 ジャック会頭がぶちまけます。


 「えっ?」


 持ち株会社みたいなものですが、全体の経営を誰かが見ないわけにはいきません。これは重要な役職ですね。


 「タロウさんはしないの?」


 「タロウの方はな。レイコ殿の奉納案件をまとめている部署を独立させることになってな」


 「えっ?」


 タロウさんが、聞いてないよって顔しています。


 「ランドゥーク商会って、タロウさんが跡取りだと思ってましたけど」


 「もともとは衣服の商会が、いろいろ手広くなったしな。分野毎に下に着く商会を細かくしようってことだ。タロウはもちろん跡取り候補だが、商会をまとめる経験が無い者をいきなりランドゥーク商会の会頭に据えるわけにはいかんからな。下の商会で揉まれて来いって事だな」


 先に子会社に出向して、そこで修行しろってことですね。


 「とはいえ、小さい商会ではないぞ。伯爵にお話したら、タロウの商会の方が本家よりでかくなるんじゃないかって仰っていたしな。まぁ、そうなったらそうなったでそのままランドゥーク商会を吸収すればいいだけで、手間が省けるな。はっはっはっは」




 カヤンさんとミオンさん、さらにモーラちゃんと交えて、新ファルリード亭の改装計画を立てます。

 一回の元ギルド受付がそのまま宿屋のフロントに。飲食コーナーはそのまま全面に食堂にですが、厨房と客席共に手狭なので、となりの馬車留の方に拡張。二階の会議室は、宿の事務所に従業員の待合室と、上級客用の部屋に改装。一番でかい会議室なら、一部屋でスイートが作れるくらいの広さですからね。

 さらに、食堂と同じく馬留の方に二階建ての宿を拡張。従来の宿屋を取り込むことを含めて、三倍の規模に。


 「ずいぶん広くなるのね。人手的にも他の宿屋も取り込んで丁度良いくらいかしら?」


 さらに、訓練所の方は銭湯に。高台になっているところをうまく利用して給水給湯の設備を設置することに。

 銭湯の人手の問題があります。細かい掃除がとにかく必要な場所です。アイリさんが孤児院から働ける年頃の子を大量雇用することを提案してきました。まぁ力仕事というものでも無いので、むしろ向いているでしょう。


 うん。いけそうですね。




 数日後。マルタリクから職人さんが来ました。要件は二つで、一つは私の新居と新ファルリード亭の設計の打ち合わせ。もう一つはなんと、ユルガルム領から冷蔵庫とクーラーの試作品が届いたとの一報です。はっやっ!

 家電三種の神器のうち、早くも二つ揃いました。残るは洗濯機ですが…高トルクモーターはまだ機械施工的にハードルが高い… 洗濯板くらいしか思いつかないよ。


 先に王都とかアイズン伯爵に献上しなくて良いのか?とも思ったのですが。なに分、試験がまだ不十分。実際に使う環境で先に私に見て貰うべき…という事になったそうです。そこに舞い込んだファルリード亭の改装計画。だったら最初から組み込んでとっとと試験をしてしまえ! ということになったそうで。


 ハンマ親方から簡単な説明を受けましたが。旧ファルリード亭の食堂程度の部屋に冷風を送れるクーラーと、物置くらいの部屋を冷やす冷蔵室用クーラー。さらに、エール樽を冷やすのに丁度良い冷蔵庫を数台。冷蔵室と冷蔵庫を組み合わせることで、冷却性能を上げようという魂胆ですね。

 新ファルリード亭の新築部分には、送風ダクトを屋根裏とかに予め組み込んでおくそうです。とくに銭湯の方は必須ですよ。脱衣所に冬に暖房無いと死人が出ます、ほんと。



 旧ギルド舎部分だけですが、早速施工してもらいます。

 さすがに厨房の中に冷蔵室は作る場所がないので、厨房への勝手口を拡張して外に冷蔵室を作ることになりました。壁を三重にして間に麦わらを詰めた断熱物置という感じで、あっという間に設置されましたね。

 冷蔵室はエアコンの効きすぎた部屋という感じで、樽に入れといた水は、この季節には気持ちいい温度まで下がります。あまり冷えすぎないエール樽専用冷蔵庫に入れたエールは、さらに良い感じに冷えてます。

 ちなみに、冷蔵室内に置く冷蔵庫のヒートシンクは、冷蔵室の外に出るように壁に穴が開けられています。そのヒートシンクに風を当てるためのファンが、エアコンの室外機という感じで結構な勢い出回っていますね。

 このシステムの最大の懸念は、このファンの寿命でしょう。一夏持つようなら合格として良いのでは?と思います。


 あと。ガラス板まで製造されてユルガルム領から運ばれてきましたよ。

 低融点な金属を融かしてプールにして、それに浮かべる形でガラス板を作る、うまくいったそうです。

 ただ、まだ溶融プールが試作段階なので、1メートル四方程度までだそうで。それでもティッシュ程度の歪んだガラス板だったころに比べれば躍進です。

 1ダースの板ガラス、これを枠に填めてファルリード亭の窓に付けてくれるそうです。これだけでも評判になりそうですね。


 一週間後。だいたいの施工が終わりまして、クーラーと冷蔵庫のお披露目です。

 七月も下旬、そろそろ暑くなってきた季節です。

 新ギルドとの距離がちと離れてしまいましたが。宿と食事目当て、あと職場の帰りに夕食をと寄ってくれるお客は結構います。


 「飯食いに来たよ~…ってなんか涼しいな? なんだこれ?」


 入ってまず、ヒヤッとした空気に驚きます。ちょっとファンの音がうるさいですが、この快適さと引き換えなら許せるでしょう。

 でもって、出された冷やしエール。冷やしエール始めました。

 結露するにはもう一つではありますが、この季節にしては十分低いこの温度。皆があっという間に飲み干してしまいます。…皆がエールをがぶ飲みするので、いつもの三倍くらいの速さで減っていきますね。確保したエール樽の数を増やしておいて正解です。…プリン用の冷蔵庫は別に追加注文した方が良さそうですね。いや、エール用冷蔵庫も追加ですか。


 さて。一週間使って、ファンの故障が4箇所ほど。ただ、ファンは簡単に交換できるようになっていますし、予備がファルリード亭に置かれていましたので。私が交換して連続使用は出来ています。

 故障したファンはハンマ親方に回収されていきました。故障原因の分析と修理して再利用です。 …来る都度にエール込みで食事していきますね、ハンマ親方。

 回収していったファンについて聞くと、一番多い故障箇所は意外にも軸周りでは無く、ファンの振動で配線をろう付けしていたところが剥がれてしまったこと…だそうです。ろう付け箇所の強化と、配線をヨリ線にすることで振動が伝わりにくくすること…で対処するそうです。

 さすがに軸受けは一日二日で摩耗しきったりしませんが。それでもそれなりに摩耗は進んでいるそうなので。こちらの耐久テストは別途経過観察が必要とのことです。




 当然、冷房と冷えたエールは大評判となり、中央通りの商店や貴族街からも問い合わせが殺到しているそうです…なぜかファルリード亭に。宿屋と食堂に発注しようとする人が結構訪れたりしました。まぁ、ここが私の定宿というのはよく知られているのが原因でしょうね。


 クーラーの冷蔵庫の注文はそのままマルタリクの方に丸投げで紹介していますが。これら機材はまだ試作&試験中ということで、予約という形で承ります…ということになりました。

 夏を前に皆欲しがるのは仕方が無いところですね。王城と伯爵邸への納品は、前倒しになったそうです。まぁ貴族邸からの発注が優先されることになりますので、商会に納品されるのは…今年は無理かな?


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