第2章第003話 職人の街マルタリク

第2章第003話 職人の街マルタリク


・Side:ツキシマ・レイコ


 ファルリード亭では、カヤンさんがメニューの検討を続けてます。

 ランドゥーク商会が利権をとりまとめる事になったことと引き換えに、油、卵、砂糖、牛乳を割引価格で卸して貰えることになりました。ただ、それでもまだ宿屋の食堂で出す値段ではないですね。特に砂糖は商会でも限界があります。

 カヤンさんは、フライをメインに何とかしようと試行錯誤してます。

 モーラちゃんも、カーラさんに手伝って貰って原価計算に忙しいです。この子なりの算数の勉強ですね。えらく実践的ですが。


 「私は、そういう計算は苦手なので」


 は、ミオンさんの言。うん、モーラちゃんの才覚は、ご両親の良いところ取りです。




 というわけで。私はアイリさんとマルタリクという街に来ています。


 街と言っても、エイゼル市からカラスウ河を渡って少し行ったところなので。エイゼル市の拡張と共に、街並みも繋がりつつあります。エイゼル市周辺の町や村は、大体こんな感じです。

 効率的に職人を働かせる…という名目で、スラムを撤去した後に職人らを集めて作られた街だそうです。

 鍛冶、木工、美術という区分はもちろん、細工、建築、土木道具、馬車、何でもありで。職人の数も千人を超えて、エイゼル領のインフラを支える街になってます

 ちなみに、紡績等のアパレル系は、もうちょっと北の方にある街が中心だそうで、六六の人が大勢働いているとか。裁縫や紡績の道具自体は、この街で作られてます。


 マヨネーズを作るのに食堂で皆がヒーヒー言っていましたので。その辺も含めていくつか料理道具を作って貰えないか?という相談をしに来ました。アイリさんの持っているランドゥーク商会の紋章をしけたゴルゲットは、ここでも有効で。有力な職人を紹介されました。


 目の前で腕を組んでいる職人は、ハンマ・ダイビルさん。

 髭もじゃで筋肉がっしり。これで背が低かったら、まんまドワーフだね。

 横で一緒に話を聞いているのが、カンナ・ダイビルさん。ハンマさんの娘で、事務方のようです。


 とりあえず、泡立て器とピーラーを説明します。

 泡立て器は簡単だね。真鍮みたいな金属か、曲げた竹串で作ることになりそうです。

 ピーラーはちょっと説明が難しかったけど。早速、四角く切り出した真鍮片に加工して貰って、その場で試作品を作ってくれました。刃の形が分れば、後は簡単でしょう。

 フレームは竹から切り出して、なんと三十分くらいで試作品が出来ました。腕の良い職人さんですね。

 試しに、カンナさんが持ってきた根菜の皮を剥いてみます。刃はヤスリで削った程度しか付いていませんが、野菜の皮くらいならなんとか剥けます。

 本番は、鋼とは行かなくても鉄とかで作れれば、耐久性も切れ味も問題はないでしょう。


 「おい。タルタスを呼んでこい」


 ハンマ親方が、お弟子さんだという人を呼びに行かせました。


 「アイリさんとやら。これは奉納に回した方が良いと思うぞ。泡立て器は簡単すぎて、真似するなってほうが無理だろうが。このピーラー?ってやつは、シャレにならん。売れるぞ」


 はい来ました奉納です。

 としているうちに、タルタスさんという方が来ました。彼に、野菜と試作品を渡して試して貰います。


 「なるほど…これは売れますね」


 「だろ?。ということで、量産の試作をまず五個ほど。その後に教会向けの装飾した物を…そうだな、十セットほど作ってくれ」


 「承知しました親方」


 細かい指摘として、歯は傾くけどクルクル回らないようにとか、あとイモの芽を取る所ね、これ重要。この辺の改良をタルタスさんと話します。


 「うーん。まずジャック会頭に話を持ってって、奉納について打ち合わせ。レイコちゃんとの契約と、あとはハンマ親方のところと量産の契約ですかね?」


 アイリさんが事務的な話をします。


 「これ、量産となると千とかじゃきかねーぞ。皆が欲しがるだろ?」


 とハンマ親方は横のカンナさんを見ます。


 「うん。これはすぐに欲しい。今日の夕食の支度から使いたい。イモの皮剥き大変だもん」


 ほらな?とアイリさんを見ます。


 「うちだけじゃ生産が追いつかないぞこれ。こんなの独占したら職人が疲労で死ぬわ。うちは開発分と量産の治具の生産で咬ませてくれれば十分だから、本生産はランドゥーク商会とマルタリクの街の職人協会の方でつけてくれねーか」


 「それでいいのなら、たぶんうちは異存ないと思うけど」


 とりあえず持ち帰り案件だそうです。


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