第2章第002話 レシピの扱い

第2章第002話 レシピの扱い


・Side:ツキシマ・レイコ


 話は、件のレシピに移る。


 「件のレシピの教会への奉納だけど。先日、王都の教会の祭司を招いての食事会を行なってね。そのときにした喜捨と共に、無事登録が済んだよ。で、そのレシピの管理なんだけど…」


 ブラインさんが説明してくれる。


 レシピの開発と登録は、私とカヤンさんの共同としてくれるよう頼んである。喜捨にかかった費用などは、ランドゥーク商会が持ってくれることで話が付いている。その分、レシピの優先使用とか、今後の新レシピに咬ませて欲しいとか、いろいろ"お願い"はされている。実質、ランドゥーク商会が管理することになるが、私にも特に異存は無い。信用していますから。


 「あとはこれだな。皆立ってくれ」


 その場にいる全員が席を立つ。私もそれに習います。


 羊皮紙を広げて、アイズン伯爵が読み上げる。


 「栄光あるネイルコード王国国王、クライスファー・バルト・ネイルコード陛下のご下命である。この度のフライ、マヨネーズ、プリンのレシピ登録において、その権利者がツキシマ・レイコであることを国として認め、王室公認とすることを玉璽とともにここに記する物である」


 おお。国王様の承認を得たということか。


 「レイコちゃん。奉納以外に権利を認めて貰う方法というのが王室御公認でね。この国の範囲なら、協会奉納よりも強力よ」


 アイリさんもびっくりしています。


 「謹んで受け取るが良い」


 丸めた羊皮紙が筒に入れられ、私に差し出される。それを卒業式の時のように受け取った。

 アイズン伯爵が、あの恐い顔でニヤッと笑う。


 「いきなりびくりさせてすまんの。まぁ、これが王国での作法の一つだと覚えておいてくれ」




 このあと。レシピの権利書、喜捨にまつわるお金のやり取りの決済、その辺の書類の整理をやらされました。…主にアイリさんが。

 結構なお金が動く案件になるので、しばらく私に就いてこの辺の管理をしてくれるそうです。


 一通り書類が片付く頃、鐘の音が聞こえます。教会は隣だから、結構大きな音です。

 アイズン伯爵らに昼食に誘われたので。断るのも何なのでお受けすることに。


 「伯爵家で食事なんて。私、そこまでのマナーなんて身につけていないですよ!」


 書類でテンパっていたアイリさんが、さらにテンパりますが。


 「ははは。ランチですから、そこまで畏まった物ではないですよ。マナーというのなら、ジャック殿も…ねぇ」


 「昔のことです。今はまともになったでしょ?」


 ブライン様が笑う。ジャック会頭が苦笑する。お二人は、結構昔からの知り合いみたいですね。




 食堂に移動すると、すでに席に着いていた人たちがいました。


 「紹介しよう。私の妻マーディアと、息子の嫁メディナール、孫のクラウヤートだ」


 試食会の時の貴婦人くらいのお歳の、これまた貴婦人。三十いってるのかな?というくらいの婦人、そして十を超えたくらいの少年が、会釈してくる。


 「ツキシマ・レイコです。この子はレッドさんです」


 私も挨拶する。


 「初めまして、レイコ様。アイズン伯の妻、マーディア・エイゼル・アイズンと申します」


 「ブラインの妻、メディナール・エイゼル・アイズンと申します」


 「僕は、クラウヤート・エイゼル・アイズンです」


 揃って頭を下げられた。


 「あの、私に様までは要りませんので。庶民の出ですから」


 三人で戸惑った顔をする。私は、そんな大した者ではないですって。


 「初めて会ったときにも、似たようなやり取りあったよな…」


 と遠い目をするタロウさん。


 「あの。私たちはレイコちゃんと呼んでます」


 とアイリさん。


 「さすがに、私たちが巫女様をちゃん付けは憚られますので。レイコ殿でよろしいでしょうか?」


 やっぱりそこに落ち着くのね。


 「僕は、レイコちゃんでもいいですか?」


 と、目をキラキラさせてクラウヤート様が聞いてきた。


 「はい。もちろん!」


 ご両親がちょっと眉をひそめるが。私が良いと言ったので、とくに反対はしないようです。


 「あと…その子は小竜様ですね。ぜひ、一度お会いしてみたかったんです」


 「クー?」


 私が抱えているレッドさんに興味津々なようだ。


 「レッドさん、抱っこしてみます?」


 パカーっと少年らしい笑みを浮かべて、クラウヤート少年はレッドさんを受け取った。


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