第2章 ユルガルム領へ
第2章第001話 貴族街へ
第2章第001話 貴族街へ
・Side:ツキシマ・レイコ
あのバッセンベル貴族との騒ぎのあと。私は宿を出てどっかに部屋を借りようとアイリさんに相談したが。モーラちゃんに泣いて止められた。
モーラちゃん、あのとき護衛の人が馬鹿貴族を止めようと動いていたことは察知していたが。自分の店にずかずか入ってくる奴らを見て、体が動いてしまったそうだ。蹴りをまともに食らったのは自分の不覚で、私に責任はないと。
北方山岳地帯の住人、通称"山の民"。ミオンさんがまさにそれだけど、素の身体能力が普通の人より高いらしい。モーラちゃんはハーフだけど、その辺は結構受継いでいて、あの程度の蹴りはへっちゃらだそうだ。
カヤンさんとミオンさんも混ざって喧喧諤諤とした結果、まだしばらくファルリード亭にお世話になることにした。
一週間後。アイズン伯爵からの使者が来ました。明日、私を伯爵邸に招きたいとのこと。
貴族からのお誘いってことでちょっびっくりしたけど。当日は馬車で迎えに来てくれるし、ジャック会頭らも同行してくれるとのことで、了承しました。
その使者さんは、私の貴族街通行証と、レッドさんの財産所有権の登録証も届けてくれた。とりあえずレッドさんに関しては一安心なのかな。
レッドさん、これで私のものです。どや。
「クー」
なんかあきれられている感じもしますが…
流石に今度はエプロンでというわけにはいかないので。赤井さんに貰った服を来て、毎度のごとく朝食も食べに来たアイリさんと共にギルドに向かいます。伯爵からの迎えの馬車はそこに着くそうです。
護衛としてエカテリンさんも乗っている馬車で貴族街に向かいます。以前、市場帰りに皆でお昼を皆で食べた城門前広間から門をくぐり、そのまま進んで真正面に見える立派な教会の横が伯爵邸となります。
馬車が屋敷の前に付けられ、執事っぽい人に案内されて屋敷に入りました。
おお、メイドさんが働いている。衣装は、洋風八割和風二割って感じのデザインかな?襟を重ねている当たりが和風だ。
私たちが通りかかると、作業を中断して会釈してくれます。私が抱えているレッドさんを見てびっくりしてました。
「私、貴族街は入ったことあるけど。伯爵邸に入ったの初めて」
アイリさんがささやく。まぁ普通、呼ばれもしないと入らないよね。
「俺は、会頭に連れられて何度か」
とはタロウさん。やっぱジャック会頭はこの街の重鎮なんだね。
応接室らしき処に通され、少々待つように言われ、お茶とお菓子が出されました。
部屋は、キンキラ豪華絢爛…というわけでは無く、木製家具が並ぶ感じが重厚な雰囲気の部屋です。でも、決して質素ではない。
正面の壁に飾られているのが、街の地図ってあたりが伯爵らしいのかも? 一軒々々描かれた結構精密な地図ですね。
五分くらい待ったころ、アイズン伯爵がブライン様と一緒に入ってきました。
真っ先に、先日のバッセンベル貴族の件について謝罪された。
「他領の貴族とは言え、あれを野放ししてしまったのは我々の責任だ。誠に申し訳ない」
アイズン伯爵が頭を下げてきた。発動小市民!やめて~!
「いえいえ、悪いのはあいつですから。他の人に責任があるとは思っていません!」
「…そう言っていただけると助かるよ、レイコ殿」
バッセンベルの連中は、治療もそこそこでバッセンベル領に護送されたそうです。やらかした罪状を詳細に書いた書状と共に。
先方がどういう処罰を下すかで、今後の付き合い方も変わるだろうとのこと。
バッセンベル辺境伯は、生粋の軍人で。隣国のダーコラ国との戦争での戦功で地位を上げていった家系だそうです。
今でこそ同じ反ダーコラ国としてネイルコード王国に与することになっているます。最前線を差し置いて、武力ではなく経済で繁栄しつつある王都-エイゼル領-ユルガルム領に、特に辺境伯配下の貴族が反発しいているそうです。
「脳筋集団ってことね…」
「脳筋?」
アイリさんが首をかしげる。
「頭の中が筋肉で出来ているって意味」
「わっはっはっは。そりゃ的確な表現だな」
アイズン伯爵が笑う。
「ただ。配下の貴族はともかく、バッセンベル辺境伯自身はそう頭は悪くない。武力だけでは辺境伯にはなれんからの。件の毒についても本人が指示しているとは思えんし。今回の下っ端の暴走にも、頭を抱えることになるじゃろうな」
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