第1章第043話 覚悟のすすめ
第1章第043話 覚悟のすすめ
・Side:ツキシマ・レイコ
座学が終わると、次はギルド横の訓練場のような処に皆で出ました。
魔獣化した動物の攻撃の仕方とその対処方法の講義です。
あのヘルメットの角や横モヒカンには、きちんと意味があって。対峙したときにはまずこちらからも威嚇するのが第一なんだそうです。
魔獣はともかくまっすぐ突進しがちだけど、目的はこちらの急所狙い。まっすぐ突っ込むのが危険だ判断すると、速度を緩めて他のところを狙おうとしてくるので、そこを付く。この隙を作るために角や横モヒカンが役に立つのだそうですが。…まぁ、雇い主に顔を覚えて貰う意味もあるそうですが。
威嚇で速度を落した魔獣は、噛み付き攻撃を仕掛けてくるそうです。狼のような元々肉食の魔獣は首を狙ってくるか。他の動物は、肩や手首足首を狙って組み伏せようとしているとかで。それを防ぐためにトゲトゲが防具についてます。
ちなみに、トゲトゲは木製で、防具に並べて貼ってあるだけだそうで。まぁ鉄だと重たいよね。
武器は、ショートソードかダガー。両方持っている人も多いそうです。
魔獣との接近戦では、長い獲物よりは小回りの効くダガーが薦められました。人と違って、防具を着けているわけでは無いですから、斬撃力は必要ないそうです。
横モヒカンの人が、魔獣役で覇王様に対峙します。
揃えた両手を口に見立てて、覇王様の手脚を狙ってくるが。そこをカウンターで首や横腹を刺す。もちろん武器は本物ではなく、訓練用の木製ナイフです。たまに変なところに入ったのか、横モヒカンが悶絶していますが。
魔獣のテリトリーでは盗賊はまず出ないですが。対人戦についても話してくれました。
防具の有無や、互いの狙い所など、魔獣とは全く違う立ち回りが必要だとかで。覇王様も訓練をしているそうだけど、我流の喧嘩剣法では参考にならないだろうと、その辺は兵士なり騎士様に講義を受けた方がという話で締めくくられました。
最後に、覚悟について。
最悪の状況で、護衛対象を見捨てるのか。仲間が殺されそうになっているところで逃げるのか。それとも自分が代わりに死ぬのか。
理想ならいくらでも語れるでしょうが、全滅するのが美学などと思うなと。もちろん、各自譲れない線はあるだろうし、答えがある話でもないですが。この辺は、兵士や船乗りでも同じ話で、命の危険がある職に付くのなら、もしかしたらという最悪は心の隅に常に置いておけ…と言われました。
講義を受けていた子供達は、神妙な顔つきになります。年齢からしてそろそろ将来の職を決めるべき時期なのでしょうが、たぶんこの講義には跳ねっ返りを牽制する目的があるのだと思います。
「まぁ俺たちは、アニキに付いていくだけだけどね。姉御とガキどもの泣き顔見たくないから、盾くらいにはなりやすぜ」
横モヒカンがまた小突かれてました。これは覇王様の照れ隠しでしょう。
ここで、遠くから鐘が聞こえてきました。お昼です。
ギルドの食堂から軽食が運ばれ、子供達にも振舞われます。ただ、子供達は静かですね。護衛職希望でここに来たのはいいですが、先ほどの覚悟の話が結構効いているようです。
一人の男の子がつぶやきます。
「…俺の父ちゃん、護衛中に死んでるんだ。ただ、物を運ぶほどこの国はでかく成る、このギルドはとっても意義がある仕事だって、父ちゃんは言ってた。だから、おれはギルド目指してみるよ」
「タマス、ギルドの登録には読み書き計算必須だからね。そちらも頑張れよ」
知り合いらしき子が突っ込みます。
「がーっ!せっかく決心したところなのにーっ!」
子供達から、やっと笑いがこぼれます。
…まぁ針路については、今の内に悩めるだけ悩んでおきなさいね。
一週間ほど、午前中はギルドで講義、午後は宿屋でまったりしたり、モーラちゃんとミオンさんの買い物に付き合って、近い方の市場にレッドさんを連れて出かけたりしました。
レッドさんの目撃者は、順調に増えています。
モーラちゃんのお手伝いで、ウェイトレスもやってみました。他にも宿に雇われている人もいますが、繁盛時にはやっぱ大変そうだったからね。
注文聞いてメモして、厨房にメニュー連絡して、出来てきたら配膳。けっこう楽しいです。
レッドさんはそういうとき、カーラおばあさんのところにいます。猫にもモテてますね。
アイリさんとタロウさんに薦められるまま、いくつかの講義を受けていたところ、ギルドへの登録資格が整ったと言われました。そんなつもりで講義を受けていたわけではないんですけどね。
運輸協会とはいえ、護衛の仕事が年中あるわけでも無いので。閑期に受けるような仕事もいろいろ斡旋しているんだそです。この街に来る途中に見た街道整備とかもその一つだそうで、あとは魔獣の討伐任務もけっこう多いです。うーん、このへんはまんま冒険者稼業ですね。
まぁ、子供の姿の私ががそういった依頼を受けられるかはともかくとして。読み書き計算が出来て口座を持っている証明として一種の身上保証になるとかで。とりあえず入っておくのは無駄にはならないとのことです。
…これも私たちをこの国に取り込みむ計画の一部じゃないかな?とは思いましたけど、登録はしておくことにしました。
指名依頼とか強制があるわけでは無いので、そのへんは安心してくれと言われました。この辺は異世界物あるあるですからね。
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