第1章第028話 エイゼル市到着
第1章第028話 エイゼル市到着
・Side:ツキシマ・レイコ
朝。感じ初夏という気候なので、服も乾いている。
軽い朝食のあと、お借りした家から、村の外れの馬車停めに集合だ。
ダンテ隊長が、騎士達と朝礼をしていた。
「さて。任務に支障が無いように普段から飲食に気を配ることの重要性を認識している者も多いと思うが。今日からの道程は、魔獣の勢力圏からは外れることになるので、昨日のようなことはそうそう起きないとは思うが。敵を魔獣だけと断定せず、各自油断はしないように。それでは出発準備を」
なんかげっそりしている隊員が多い。酒はともかく、あれだけ肉を食えば胸焼けもするだろう。
馬車停めの広場の端で、村人が店を開いている。
「食べ過ぎ飲み過ぎに良く効く薬草茶はいかがかね?一杯3ダカムだ」
青汁みたいなものが鍋に入っていて。それをオタマでカップに掬って売っている。何人かの隊員が、鼻を摘まみながら飲んでいた。商魂たくましいです。
馬車に乗り込み、出発だ。
今回も、村人が並んでお見送りしていた。伯爵はここでも人気者だね。
「半分以上、レイコちゃん目当てだと思うけど」
馬車の中から手を振ると、皆が振り返してくれたよ。楽しい村だった、いつかまた来たいな。…肉焼きは他の人にまかせたいけど。
「レイコちゃんからいい匂いする」
エカテリンさんに言われた…
今日は3つの村を通過し。その次の街が次の宿泊地だ。目的地のエイゼル市へは、明日午後くらいに到着予定とのこと。
最初の村では、宿泊の前触れを出したにも関わらず到着できなかった詫びとして、肉を大量に置いていった。 到着できないことが分った時点で連絡は走ったが。伯爵が滞在ともなれば、事前の準備は必須なはずだから、補填は必要だよね。
残りの村でも、肉を卸していく。エカテリンさんが言っていたように、どの村でも秋に用意した保存肉は冬越しのときにほとんど消費してしまったので。肉はどこの村でも歓迎された。
肉の行商キャラバンみたいになっているなぁ。御者とセットで借りた荷馬車は、空荷なり次第焼き肉パーティーの村に帰っていく。
本日の宿泊地、トクマク。タシニの街より二回りくらいでかいかな。
ここから南東に進めば、目的地のエイゼル市。東に進めば、王都ネイルコードだそうだ。
この街では特にイベントも無く。アイズン伯爵達と同じ宿で一泊した後に再出発。
この辺の街道も河なりだ。所々で、街道整備をしている作業員達とすれ違う。道路工事はどこでもやっているもんだね。
「この丘の向こうからがエイゼル市だ。そこを越えれば、街もすぐ見えてくるはずだ」
御者席に座らせてもらっていたので、となりはタロウさんだ。
河から少し離れた丘に、砦が立っている。数百人が入れば一杯になるのでは?という小さめの砦だが。そこから河まで柵が続いていて、合わせて関所としているようだ。
「エイゼル市は王国の東西を結ぶ街道の要所だからね。国の南北方向にはエイゼル領と関係いいんだけど、西はちょっと問題あるから。治安のために何カ所か関があるんだ」
西ってのは、件のバッセンベル領。領の境界はまだずっと西だけど。そこからのキャラバンにはそこそこ警戒しているそうだ。
関をくぐったところで一旦止って検閲を受ける必要がある。とは言っても、領主が乗っている馬車が随行しているので、手続きはスムーズだ。
関の兵はここに交代で泊まり込みなので。伯爵は件の肉をまた一塊置いてった。露骨に喜んでいる兵士が何名かいるなぁ。
関所を抜け、丘に茂っている林を越えると、そこには広大な農地が広がっていた。
水路が巡らされているようで。河から離れたところにも麦が植えられているのが分る。
所々に、集落や牧畜、野菜や果物を育てているところもあるようだ。
日も傾いてきた。太陽が豊かな平原を照らしている。丘を越えたばかりで少し高いというのもあるが。遠くまで良く見渡せる。
右に続く山地の端が見えてきた。その端が平らに切り開かれていて台地のようになっており、そこに城が築かれているのが見える。…城というより城壁に囲まれた城塞都市?そこだけでもかなり広そうに見えるが。その城塞を中心に、そこからさらに大きく街が広がっているのが見える。さらにその街の向こう側、北からかなり大きな河が流れていて、日が反射してキラキラしていてる。城塞都市と河の間が全部街という感じかな。
そして、その河の向こうの平野にも、集落が点在し豊かな農地が広がっているのが見える。
「ようこそエイゼルへ、でいいかな? 巫女様からみて、ここどうだい?」
「うん。すごく綺麗で立派…」
「僕は、ここから見たエイゼルの風景が一番好きなんだ。もともとエイゼル市は、あの城塞の周辺に農地が広がっているだけだったんだけど。伯爵が来られてからここまででかくしたんだそうだ。しかも、今のまだまだでかくなっている」
タロウさんが、景色を見ながらにっこり微笑む。この地に誇りを持っているのだろう。
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