第1章第029話 王都からの指示
第1章第029話 王都からの指示
・Side:ジャック・ランドゥーク
エイゼル市への入り口の関のところで、小休止とばかりに馬車からは皆が降りていたが。いざ出発と馬車に乗り込こもうとすると、一人の男が既に中にいた。
護衛騎士隊長のダンテ殿が思わず身構えるが。
「なんだセーバス殿か。驚かすな」
顔を確認して警戒を解いた。
「セーバス卿、ずいぶん早かったな」
と伯爵も、馬車に乗り込む。伯爵もこの男に面識があるらしい。貴族の屋敷によくいる執事の格好をしているが、うーん彼も五十代くらいか? グレーになりつつある髪をバックにしている。特に特徴がないと言えば特徴なのだが、どこかで見たような気もするが、なんというか気配が薄い男だ。
「昨日の夕方には、トクマクの街から伝令が出ましたからね。夜通し走って王都へ、そこからローザリンテ様とクライス様のご判断を持って今ここに…ってところです」
と、封印のされていない巻物を懐から出して、伯爵に渡した。
「移動時間も流石だが。王宮の判断が早かったなという意味じゃ」
「ローザリンテ様ですから」
とにっこり笑う執事。
伯爵は巻物を広げて、読んでいる。
「ふむ…要は既にしているように、隠すのでは無くそれとなく広めてしまえ。こちらから囲い込むのではなく、この街に依存するように誘導しろってことかね?」
「的確なご理解かと思います」
私とダンテ隊長が、よく分らないという顔をしていると、伯爵が説明してくれた。
「赤竜神様の思惑は分らぬが。状況からしてこの国を選んでレイコ殿達を連れてこられたのは確実じゃ。あの北方山脈のさらに向こうからわざわざ飛んで来られたのだからな。それに応えるという意味でも、捕らえて閉じ込めるなんてのはありえんじゃろ」
赤竜神様が飛んでこられた距離は分らないが。あの山脈を越えられるのならどこへでも、それこそ正教国に連れて行くこともたやすいだろうが。赤竜神様はそうしなかった。そこに意味があると伯爵は考えておられるようだ。
「赤竜神様からおあずかりしたも同然の小竜様と巫女様。当然ながら他の貴族やら他国やら、当然教会や正教国も狙ってくるじゃろう。かといって今、レイコ殿達を屋敷に隠すなんてのは、後で痛くない腹を探られかねないし。なにより彼女らが望むように思えん」
「物腰おだやかで、かなりの教育は受けているとは思いますが。貴族然とはしていませんでしたからな。窮屈な生活は好まれないでしょう」
隊員のために風呂を沸かし、道中の村で肉を焼きまくっていた姿を思い出した。
あ。でも、ボアの解体でキャーキャー言っていたのは、子女らしかったかも。
「で、国としてはじゃが。まだ彼女らをどうべきなのか見極めが付かないが、現時点で放置するのは論外。国としては積極的に取り込まず、それでいて彼女らの意思でこの国に滞在してくれれば理想的。要は、この国を気に入って貰えってことじゃな」
彼女らが自発的にここにいてくれて、この国と仲良くしていますと周知するのが最善…ってことか。かなり大胆にも思うが、話を聞くと良い判断に思う。積極的に所有権を主張するなど悪手もいいところ。貴族と貴族、国と国で取り合うなんて形にでもなれば、対立がどこまで波及するか想像できない。
「まぁ、治安の良さといい賑やかさといい、このに匹敵すると言ったら、この大陸では王都とユルガルムと。あとは南方諸島がかなりなものという評判があるくらいですな」
自画自賛とも言えるが。もしこの街が気に入って貰えないとなったら、他の街も無理だろう。
「というわけで。彼女らはしばらくはジャック会頭のところで預かって貰おう。ギルド預かりとするか、ランドゥーク商会預かりとするかの判断は任せる。王宮の方で対応と諸勢力の出方が固まるまでは、自由でいてもらおう」
「承知しました。ではギルドからはアイリを付けておきましょう。すでに仲が良さそうですからな」
タロウをとも思ったが、人を付けるにしても同性のアイリの方が良かろう。…もうすこし歳がいっていけば、タロウをぶつけるのもありだったかもしれんがな。
「騎士からも人を出した方がよろしいかと。王国側も気にかけているという姿勢もそれとなく示す必要がありましょう」
「王宮からの護衛と監視を兼ねて、既に私の部下が動いております」
ダンテ隊長とセーバス殿からも人が出るようだ。確かにアイリでは、案内はできても護衛は無理だろうからな。
「それでは各自よろしく頼む」
ギルド方向と貴族街への分かれ道で、一旦馬車が止められ。レイコ殿達の乗る馬車に移るためな、私は伯爵の馬車を降りた。
・Side:ツキシマ・レイコ
今進んでいる街道は、市街地の北端に向かっていた。キャラバンの拠点は、街の北端にあるそうです。
ここから見て右の山の向こう、城塞都市の南側には海があって、そちらの港にもキャラバンの拠点があるそうで。海運が絡む場合にはそちらの拠点を使うそうです。
アイズン伯爵の領主邸は、城塞の中にあるので。護衛騎士の人たちとも、次の分かれ道で一旦お別れです。
辻道のところで一旦停止すると、私たちの馬車にジャック会頭が乗ってきました。
「レイコ殿は、一旦私の預かりとなりました。あそこの中は貴族街ですので、今下手に行くと面倒になりかねないので。その辺の根回しが終わるまで、ギルドの方でお世話させていただきます。アイリは、しばらくレイコ殿の専属として、面倒見てやってくれ。タロウもな」
「承知しました」
「レイコちゃん、街を案内して上げるね」
「よろしくお願いします」
「クー」
出発するアイズン伯爵の馬車に礼をする。気がついた伯爵が手を振ってくれた。護衛の騎士達も手を振ってくれるので、私も振り返す。
暗くなった東の空には、地球のそれより倍近く大きく見える、そしてどこかで見たような満月が登っていた。
…ああ、ここではこういう月なんだ。
その月の異様さに、目がチベットスナギツネのように細くなる。
頭の中に、ジャーンジャジャジャーンという有名な帝国のテーマが流れてます。
土星の衛星にミマスというのがあります。直径四百キロもない天体なのですが、見た目に顕著な特徴として、巨大なクレーターがあります。そのクレーターのサイズが星に対して大きすぎるので、まるで超有名SF映画で有名な球状要塞に見えるのです。
今昇っているこの月は、どれくらいのサイズだろうか?。
一日の長さも重力も、日の大きさも明るさも、地球のそれに比べて違和感を感じることはないけど。詳細に量る手段がないので、厳密には比較もできないけど。月齢が七日周期とかエカテリンさんは言っていたので、公転周期の二乗は公転半径の三乗に比例だっけ?ケプラーさん。単純かつ簡単に計算して、公転軌道の半径は地球の月の半分以下、見えるサイズは地球の月より大きいけど、実際のサイズは地球の月より二廻り小さいくらいかな。
この月には、巨大なクレーターがくっきりと見えています。地球の月の雨の海がもう一回りデカくて、クレーターとしてはっきり見えていたら、似たような感じだろうか。
うーん。綺麗だけど、なんか落ち着かないや。
…赤井さんがやったのかな?あれ。
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