第1章第027話 レッツ、焼き肉パーティー
第1章第027話 レッツ、焼き肉パーティー
・Side:ツキシマ・レイコ
焼き肉パーティの開催、場所の確保、机や椅子や調味料や酒や他の食材等のもろもろの手配に、村人の招待。これらは、異様にテンションの高くなった騎士による先触れで事前に村に知らされていたので。着いたころには、村の広場で既に用意が始まっていた。
本来はもう一つ先の村で宿泊予定だったそうですが。すでにそちらにも連絡は出ており、キャンセルの詫びとして後で肉塊が送られるそうな。
老若男女が揃って準備をしているところに、キャラバンが到着です。
荷馬車から大量のボア肉が降ろされると、村人からは歓声が上がります。
「冬前に絞めた家畜の肉は、今の時期だともう残っていないだろうから。久しぶりのお肉って人も多いだろうな」
タロウさんが説明してくれました。と、タロウさんは村長らしき人と話しているジャック会頭に呼ばれて走って行きます。
肉の買い取り価格、割引、差額での酒代や場所代など。その辺の交渉をしているらしいですね。
村の女性陣が肉をどんどんさばいて、調味汁のような物に付けていきます。男どもは、机や椅子の配置に、コンロの設置と明り取りの篝火の用意。または、近くで採ってきた竹で串を大量生産中。
場所が整ったところで、大量に用意された串に肉が刺され、さっそく焼かれ始めました。夕暮れの村に、肉の焼かれる香ばしい匂いが漂っていきます…
机には、パンとサラダとエールみたいな酒。肉がたっぷり入ったシチュー。そしてその間に、焼かれた大量の肉が積まれた皿が、どんどん並べられていく。野菜も、煮物に葉物が並べられます。肉を巻いて食べるの、美味しいですよね。
「では伯爵。ご挨拶を」
「うむ。この幸を恵んでくださった赤竜神に感謝を。そして赤竜神の巫女であるレイコ殿に感謝を。乾杯!」
レッドさんは、すでに村の子供らに目を付けられ、遊び相手にといじられまくっていました。まぁ、子供達が見ても普通の生き物では無いと分るのでしょう、私は"それらしい人"として、既に村人に認知されているようです。
ただ、ダンテ隊長の「レイコ様は特別扱いは望まれていない」との号令により、無闇に拝まれるようなことはありませんでした。この辺皆さん、聞き分けが良くてありがたいですね。
本当は、私やレッドさんのことは秘匿したいと言われたけど。どこかの屋敷に引きこもりなんてのは選択肢としてあり得ない。だったら遅かれ早かれな話なので、積極的に広めてもいないけど故意に隠してもいないというスタンスで、やり過ごせるところまでやり過ごそうということになりました。
「乾杯!」
皆が、さっそく肉に飛びつき頬張ります。
「父さん母さん、美味しいね」
「沢山あるから、たんと食べろよ」
「野菜も食べないとだめよ」
村人親子をみて和んだりしながら、私も串焼きをいただきます。
味付けは、香草入り塩だれってところかな。野菜か果物をすりおろしたものも漬け汁に入っているようです。薄めにスライスされている肉を、二本の串に瓦のような重ねて刺して、コンロに並べて焼きます。見た目は蒲焼きっぽく無くもないですが。
熟成する時間がない狩ったばかりの肉は、肉の塊ではなく、こういうスライスしての調理にするのがいいんだそうな。うん、思ったより柔らかいのは、つけ汁に秘密があるのかな? うん、美味しいよこれ。
うーん、隊員や騎士達の食べっぷりはすさまじいです。エカテリンさんやタロウさんも、同じ勢いで食べています。串焼き一本を一口でこそぎ落すてどうよ。…お肉を口いっぱいに頬張るって経験は私も無いかも。
スーパーミラクルな体を手に入れても、胃袋の容量は人並み。串焼き3本でお腹いっぱいです。
レッドさんの容量も当然そんなに多くないので、彼もすぐにお腹いっぱいになったようです。
そこで。
「肉焼くの、手伝いますね」
「えっレイコ様?」
焼いても焼いてもおかわりの催促が来ますので。私は、自分が食べるのもそこそこに肉を焼いている奥さんの方を手伝うことにしました。
担当の奥さんは、私にやらせて良いの?とばかり、最初ギョッとしていましたが。こちらを見ていたダンテ隊長がうなずいたのを見て、焼き方を教えてくれました。
レッドさんは、子供達から逃げてアイズン伯爵のところに避難しています。あ、伯爵様がフォークでレッドさんに食べさせている。…笑顔の伯爵、ちょっと恐いですけどね。それで子供が近寄らない?
さて焼き場です。マナコンロをちゃんと見るのは初めてかな。野営でも使っていたけど。
発熱部の見た目は、ハガキくらいのサイズの石の板。先ほど見たボアのマナとは違い、薄いレンガかタイルみたいな感じです。それを専用の金属のトングで挟むと、発熱が始まるんだそうな。 それがずらっと並んでます。多分、各家庭から持ち寄ったんでしょう。
マナの板が炭みたいに赤熱しているので。梁のところに串を並べて、適度にひっくり返しつつ焼き上がりを待ちます。焼き鳥か蒲焼きの要領ですね。
じっくり中まで火が通るような焼き方が好きな人、表面パリパリになるように強火で焼いたのが好きな人。塩を多めでお酒で流し込む人。いろいろこだわりがあるようで。コンロからの高さの違う梁を使い分けて焼きます。
私のところには出されなかったですが。捨てずに持ってきた分のレバーや腸なんかも串に刺されてます。このへんは鮮度が重要で、今日しか食べられないんだとか。結構な量のモツが煮物の方にも回されているようですね。となりに鍋を並べてぐつぐつ煮えているとこから、皆が掬っていきます。
先ほどの担当の奥さんも、家族と食事しています。自分が食べるより、お子さんに食べさせる方が大変そうですね。
おかわりを要求している人たちが、皿を持ってコンロと席を行ったり来たり。エカテリンさん、まだ食べるの? そんなに食べるのにその締まった体は何?
賑やかな喧噪と共に、村の夜は更けていきます。登り始めた神の玉座も空に健在です。
タロウさんは、酒で潰れました。アイリさんは、それを介抱してました。
…パーティーの後。この村にも体洗う場所はあったので、お借りしました。
破れない汚れない私の服も、焼き肉の匂いには負けました。髪の毛からも匂いがする。体を洗いつつ洗濯です。
明日までに乾くかな?。
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