第3話 えっ!?
そして、秋晴れ眩しい土曜日の午後。
ふー、いよいよ私の婚約者がいらっしゃる。
予定時間は午後2時ごろ。今は1時50分。
胸がドキドキします。
やばいです。
意外と緊張しています。
ピンポーン 変哲もないチャイムの音なのに、やけに心臓に響いた。
来た! 私はインターホンを無視して玄関の扉を開いた。
「ユキ?」
目の前には私より10㎝以上背の高い無造作ヘアのよく似合うイケメン。
そして、お腹にずしんと響くイケボ。
メガネとキャスケットでもわかるこの輝きに満ち溢れたイケメンは。
神様、かな
「ユーキ?お家いれてくれませんか?」
苦笑いをする神、いえ相模みなと。
えっ、ちょっと待って?
どういうことなのですか?
プチパニックに陥った私は壊れた機械のようにぎこちない動きで、それでもなんとか彼を家の中に招き入れた。
居間には我が家族が勢揃いしている。
白い大理石のローテーブルの周りには、3人掛けソファーと1人掛けが4つ置いてある。私は空いてる3人掛けに彼を促すと、自分はその端に座った。
3人掛けでよかった。2人掛けでは身が持ちません。
「おじさんおばさん、お久しぶりです。神戸幸二です」
スッと立ち上がり綺麗なお辞儀で挨拶をする彼を、まだ夢見心地でぼーっと見上げる私。頭が考えることを拒否している。
「コウちゃん、お久しぶり。大きくなったわねぇ」
「幸二くん、約束を守ってくれてありがとう。今日からはパパって呼んでもいいぞ」
明らかに挙動不審になってるだろう私を、気にも留めない両親。
どうやら兄弟は、私と同じようにパニック中かな。
だが若さのせいか弟が先に立ち直ったようだ。
「ちょ、ちょっと待って、姉ちゃんの婚約者ってこの人なの?!」
勢いよくテーブルに乗り出す智。
ソファーに座り直した彼はキャスケットとメガネを外した。
やっぱり、相模みなと!!
「みなとさま?!」
真由が再起動した。コウちゃんが困ったように頬を掻いた。
「はい、歌手やってます。相模みなとって言う名前で」
陽だまりのような穏やかな微笑みで私をにっこりと見ながら答えてくれる。
あ、好き。
「父さん、婚約者は父さんの子ってことよね。どうでしょうみなとさま! 姉より私の方がスタイルいいですよ! 若いし!」
なんとも恐ろしい、若さって怖い。真由のとんでもない発言に場が凍った。
「あー、申し訳ないのですが。子供の頃から有希さんだけ見てたんです。有希さんと結婚するために頑張ってたので他の方は、ごめんなさい」
ポリポリと頬を掻きながら、それでもきちんと真由を見ながら答えてくれる。って、聞き捨てならない言葉があったような気がするわ。
「え? 子供の頃から??」
「うん、有希覚えてない? 小さい頃、俺とよく遊んでたの」
「もちろん覚えてるわよ。コウちゃんいつも私に合わせてくれて、おままごととかお絵描きしてくれたわ。一緒に歌も歌ったわね」
小さい頃から私はとってもインドアなお子様で、外で遊ぶよりは家の中で静かに何かをするのが好きだった。
そんな時もコウちゃんはいつも優しく相手してくれていた。きっと外で遊びたかっただろうに、良い人だ。
「あの頃から有希のことが大好きで、わがまま言って婚約者にしてもらったんだよ」
「幸二くんすごくてなぁ。有希を連れて帰るって会うたびにいうもんだし、かといって会わせないと静かに怒ってるっていうんで、彼の親に泣きつかれてなー」
「美幸さんにお願いされたのよね。いつか有希をお嫁さんにするんだって人生設計組み立てているから、諦めさせるために一応婚約という形をって」
「でも有希の方も幸二くんのファンみたいだし、これはこのままほっとくほうがお互いのためだって思ったんだよな」
「あー、だから私はもう写真を持ってるってことね」
「嬉しいなぁ。有希のための曲がちゃんと届いてた」
ひぇっ、私のための曲!?
うそ、でもないみたい。
私をじっと見つめるコウちゃんの目は、それが本当のことなんだと教えてくれていた。
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