第3話

「「せーの、カンパーイ」」コチンとグラスをぶつけ、梅酒のロックがカランと鳴る。

遥とは大学も職場も違うが、おおよそ季節の節目にどちらともなく連絡し、こうして顔を会わせる。高校以来の何でも気兼ねなく話せる貴重な存在だ。

ひとしきり互いの現状報告をしたあと、私はウーロンハイを一気に飲み干す。このくらいの酔いならいけるだろう。


「実は最近…気になる人がいるんだよね」

枝豆をむきながら、さもなんでもないですよという体を装いながら本題を切り出す。若干語尾が震えてしまった。

遥は目を見開いた。

「神奈子がそんなこというの初めて聞いた」

「私、そんなこと初めて言った」

え、どういう人なの?どこで会ったの?と質問責め。

あぁ神奈子もそういうお年頃かぁ、お姉さん嬉しいよ、今まで何回も合コン一緒にいってもそんな反応したことないじゃん、どしたの?


「騒がしい、騒がしい。ちょっと落ち着いて」

顔がとても熱くなる。初めてこんなに恋愛のことで緊張している。自分でもびっくりだ。

「本当に全然知らない。通勤電車で何度か見かけたくらい。喋ったこともない」

「へぇー、ほぉーん」ニヤニヤしながらもっと話せと催促してくる。

「もうヤ、知らないっ。すみませーん。ジントニック一つ。あとシーザーサラダもください!」「へいへい誤魔化しちゃって。ネェちゃんカワイイねー」

酔いが回るのがいつもより早い。恥ずかしさと酔いで顔が熱い。遥の方を見られなくてぷいっと顔を振る。

「ゴメンゴメン。でも本当に嬉しい。そんな子供っぽい神奈子初めて見るから。昔からATフィールド全開って感じだったし。そっかぁ、気になる人ができたかぁ」「そんなに全開かなぁ、遥は侵入してるじゃん」

「そんなにだよ。時々神妙な顔で悟りを開いたこと言い出すからたまに人間じゃないのかなって…え、どしたの?」

「あ、バレちゃった?」

「え、本当に」 「うっそー」

「しょうもな。でもなんか謎の説得力があるんだよなぁ、なんでだろ」

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