第C話

部長に言っていつもよりちょっと早く帰らせてもらった。休みたいけど、部屋を片付けなきゃ。お腹減った。料理もしなきゃ。

家に入るといつも通り真っ暗だ。父が先に帰ってきたことはほとんどない。別に構わない。

父が帰ってくるまでに早く片付けて、自分の部屋に籠ろう。

鞄をベットに投げ捨てようと部屋を開けると、散らかっていた部屋が整理されている。

マンガや雑誌は本棚に、服や下着は丁寧にベットの上に畳まれている。鞄を床にそっと置き、飲み物を飲もうとリビングに戻る。


冷蔵庫を開くと、弁当箱が入っている。ちらと食卓机を見ると置き紙と封筒がある。


「冷蔵庫に弁当を入れといたよ。

口に合わなかったらこちらで食べてください。大会、頑張ってね。」

封筒には何枚か紙幣が入っていた。


いつ作ったんだ。私より遅く帰り、私より早く出かけるのに。仕事が大変だろうに。


何勝手に部屋に入って、人のもの触ってんの。

弁当箱が子供っぽいんだよ、小学校から使ってんじゃん。

大会が近いなんて言ったことないじゃん、なんで知ってんの気持ち悪い。

思いつく限りの罵倒を言いながら私は涙が溢れていた。



当たり前だと思ってた。

ご飯を用意してくれることが。洗濯をし、畳んでくれることが。誕生日のプレゼントだって。あんなに手の込んだ手紙も全部破り捨ててしまった。


お父さんは私が産まれてからずっとこうしてきたの?

何が私は出来るいい女だ。ずっと不満をぶつけたり、興味がなかったくせに。

父は多くは語らなかったが、いつだって寄り添ってくれた。たくさんの愛をくれた。私はティッシュで鼻をかみながら置き紙の余白にとても小さく、しかしはっきり濃くありがとうと書いた。

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