第A話
幼稚園の頃の記憶はほとんどない。誰と遊んでいたか、何をしていたか。鮮明に覚えているのはお遊戯会や運動会で、周りの皆はお母さんがいるのに、自分の家だけお父さんが来てることが悔しくて、恥ずかしいことだった。
お母さんは私を産んだ時に亡くなった。
小学3年生の誕生日に、お父さんからそう聞かされた。
それまでお母さんは海外を飛び回って、色んな国で仕事をしているエリートなんだと言っていた。だから全然帰ってこれないのだと言っていた。
嘘だったのだ。私の誕生日とクリスマスに海外から送られてきた手紙とプレゼント。印刷されている文字は読めないけど、年賀状とは違って海外風のオシャレなデザイン。父とは似ても似つかない綺麗で優しい字。
今日は海外のどこそこにいて、その場所の風景の写真を手紙に付けてくれてたことも。
忙しくて帰れなくてゴメンね、という言葉も。来年は絶対一緒に過ごそうねという言葉も。
とても自分を責めた。
なんで私が産まれたんだろう。
私が産まれなかったらお母さんは死なずに済んだのに。
なんでお父さんは嘘をずっとついたのだろう。
自分とお父さんを許せなくて苛立ちが最高潮に達した。勢いよく立ち上がって椅子を蹴飛ばし、手紙をやぶいた。今までとっておいた手紙も全部破いた。
それ以来、父との会話はなくなり置き紙での意志疎通のみとなった。
しばらくの間上の空だった。あの日のように激しく怒ることはないが、絶えず悲しみの底にいた。時々部屋に籠って激しく泣いた。事実が受け入れられなくて、何をしていても心から楽しめなかった。
周りの女の子が占いやパワーストーンに熱中したり、恋やドラマの話をしているのを冷めた目で見ていた。
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