ある女の話
第1話
次の停車駅はどこだろう。車内の電光掲示板を見ようと弄っていたスマホから目を離すと、席はまばらに空いていてるにも関わらず、入り口付近に立ちぴったりくっついてる男女を視界に捉えた。
朝からずいぶんお盛んな事で。横目でどんな人たちか見ようとして異変に気付いた。スーツのおっさんとOLだ。おっさんの方が電車の端に女性を追い詰め、覆い被さって手をまさぐっている。
痴漢だ。
急に心拍数が上がる。マジか、マジか。
なんで誰も気づいてないの?気付かないふり?この空間に同士はいないようだ。
ダメ、違う。私が声をかけなきゃ。神は死んだのだ。私がやらなきゃ誰がやる。
でも怖い。なんでスタンガンの一つももってないのだろうと本気で考えた。止めて。
私の祈りが届いたのか電車がちょうどホームに止まり、バラバラと人が入ってくる。
助かった。と思ったのもつかの間、電車が動き出すとまたおじさんの手は再び動き出した。おじさんは巧妙に体を使って女性がその場から離脱する動きを止めていた。
なんでさっきすっと逃げなかったのと、むしろ女性を責めてしまう。あぁもう…
「すみません。彼女に何か用ですか?」
長身の男がどこからか割って出てきて、痴漢野郎の肩に触る。
「お前には関係ないだろ。気安く触んな。」
語尾荒く手を振り払う。
「関係なくないです。大学時代のバイト仲間ですよ、三咲ちゃんは。顔色悪いけど大丈夫?」
三咲ちゃんは恐怖からか、力なくこくこく頷く。
「あんまり大丈夫じゃなさそうだね。こっちに行って休もう」
三咲ちゃんの手を取ってその場から離れる。
おじさんはちっくだらなねぇと捨て台詞を吐きながら別の車両に飛び出していった。
長身の男は痴漢糞野郎が戻って来ないことを確認すると、
「ごめんなさい、気安く触ったりして。大丈夫ですか?」
「いえ、こちらこそ…」消え入りそうな声で女性はぺこぺこしている。
知り合いではなかったのか。
よく堂々とあんな事が出来るモノだ。でも本当に助かった、ありがとう。感心と感謝を心の中でしていると辺りでパラパラと拍手がおき、長身の男は軽く照れ笑いしていた。私も手を叩いた。
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