第5話

なんだなんだとシルクハットを外すと今度は眩しい青空が広がっていた。その空中を大量の魚の群れが泳いでいる。鳥や植物達もいる。

それぞれの生き物が秩序を持って優雅に泳いでいる、かと思えば突然動きを変え種族を越えた者達と共にクルクルと回りながら上下左右に縦横無尽に駆け巡る。

呆気にとられていると、彼女は俺の手を引っ張る。真っ白なワンピースを来て、頭には花飾りをつけている。もっていた筈のシルクハットはいつの間にか消えていた。



彼女がヘイ、タクシーと言わんばかりに手を挙げるワォーっという雄叫びをあげながら巨大なイルカが現れた。イルカの頭をよしよしと撫でるとイルカに体の上に登っていく。俺も続いてできるだけ優しく心を込めて撫でる。「乗ってもいいかな」と言うと、再びオォーっと鳴く。「ゴメンよ」そう言いながらイルカに登って彼女の横に座る。

彼女は私の方を見て優しく微笑み、かと思うとニヤリとして斜め上方向を勢いよく指差すとその方向に向け、イルカが空へとゆっくり動きだす。



ゆっくりとゆっくりとイルカは大きな螺旋を描きながら上昇する。俺たちと一緒に魚が、鳥が、草花がゆっくり上昇する。体を切る風が心地好い。景色も神秘的で最高に美しい。座っていた彼女は立ち上がり、その場でクルクル回りだす。動植物達も一緒にクルクル回りながら天へ向かう。

中々の高さなのでさすがに怖くて躊躇していたら、彼女はとても不満そうに頬を膨らませた。

「わかった、わかった」

あぐらをといておっかなびっくり立ち上がる。イルカの体の上は平たく滑り落ちることは無さそうだが、立っているだけで足が震える。中腰で立ちすくんでいると痺れを切らした彼女が手を取り、俺の腰に手を当て一緒にくるくると回った。



3回も回ると恐怖もとんで、俺の方から彼女の手を取った。高校時代にやったダンスを思い返しながら、彼女をリードして踊っているとパンパンとクラッカーのような音がなり花吹雪が吹き荒れる。俺の服装がタキシードになり、彼女の服装は真っ赤なウエディングドレスになった。彼女をすっと持ち上げ、お姫様抱っこしてクルクルと回る。二人で向かいあい、笑いあう。



ひとしきり踊ると二人はイルカの上に倒れた、手を繋ぎ、見つめあって、また笑いあう。

流れる風が心地好い。ぼうっと空を見ていると一陣の風が吹く。

そして彼女が言う。「きっと、きっとすぐに迎えに行くから待ってて」

「うん、待ってる」

そう言うと急に微睡みが大きくなった。あれ、何か忘れているような…結局彼女は誰なんだろう…

あぁ、そうだ、彼女にいい家が見つかりますように…

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