神の話

第1話

神は物体や生命体を媒介とし、生を受ける。

自然の神は石や川、動植物を、破壊の神は荒々しく獰猛な生き物を媒介とする。

我は人を媒介とし、仮宿として人の精神を流転しながら生きながらえている。



我が仮宿とすると、その人間はあらゆる欲望が増幅、暴走してしまう。

傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲。

人は分相応に慎ましく生きる事を知らず、あらゆる欲望に溺れコントロールできずに精神が荒ぶる。そうするとまるで我の宿は大地震が起きた如く激しく揺れ、亀裂が入り、崩壊する。巨大な渦や荒波が発生し、飲みこまれてしまうこともある。

なのでなかなか落ち着いた宿を探すのは難しい。外見、貧富、老若男女、生まれた土地など関係ない。

見た目には欲など縁遠いように見えても、度し難いほどのどす黒い混濁とした欲望を持つ者も少なくない。

引越しはなかなか上手く行かず気が滅入る。



今の仮宿に住み憑いて何年が経っただろうか。質素だがとても心が落ち着くいい住まいだし、そもそも年単位で住んだのは久方ぶりだ。

しかし最近どうも様子がおかしい。

長身の男を電車で認識してからだ。冷めている事が多い女だが、此処のところあたふたして心が騒がしい。

住まいの崩壊も著しい。

ここらが潮時か。

別の仮宿を探さなくては。まずあの男を観察しよう。

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