第102話 ティッティーと包丁
ダンジョンの地表部は巨石が組み合わされた古墳のようだった。
入り口はルガンダヒノキの丸太で封印してあり、損傷などは見受けられない。
これなら中のモンスターが出てくることもなさそうだ。
「念のために結界魔法をかけておくわね。ティッティー、手伝いなさい」
「……」
返事はしなかったけどティッティーも協力して二重の結界を施していた。
優秀な魔女二人がやったのだからやすやすと破られることはないだろう。
「これで大丈夫よ。本格的な調査は明日以降ね」
「そうだな。今日はもう休もう。みんな、お疲れさん!」
一緒に来ていたメルルがため息をついた。
「はぁ、また天幕か……。柔らかいベッドに羽根布団なんて贅沢は言わないけど、せめて家の中で寝たいよね」
相棒のミラもメルルに同調する。
「そうですねぇ。ユウスケさんがくれる駄菓子のおかげで疲労はないですが、精神的には疲れました。そろそろゆっくりと休みたいですよ」
メルルとミラだけではない、リガールもマルコも疲れた顔をしていた。
「まあまあ、そう落ち込むなよ。エッセル男爵が近いうちに大工集団を派遣してくれることになっているんだ。みんな、自分の家を持てるんだぜ」
建材は冬の間に刈ったルガンダヒノキがたくさん積まれているので、それらを使うのだ。
ルガンダヒノキは良質な建材として有名である。
「そうね、そのためにここに来たんだもんね」
メルルは力強く頷く。
「はい。大工さんに支払いをするためにも、ダンジョンに潜って稼がなくてはなりませんね。憧れの庭付き一軒家です!」
ミラもいつものポジティブさを取り戻している。
彼女たちのためにも俺はルガンダを発展させなきゃな。
気持ちを新たにして、俺たちはみんなが待つ丘の上へ戻った。
丘の上に戻ると三階建ての店舗を出した。
「おお、もう領主館が!?」
ナカラムさんが驚いている。
そんなつもりはなかったけど、わざわざ領主館を建てるのは面倒だからこれでいいような気がする。
一階部分が店、二階は倉庫、三階が居住スペースになっていて非常に便利だ。
ちょっと風変わりだろうけどルガンダの領主館はこれで決まりだな。
「それじゃあ、食料の配給をするぞ。二階から物資を運び出すのを手伝ってくれ!」
五日分の食料を分けて、その日は解散となった。
夜は店舗の鉄板を使って焼きそばを作ることにした。
ダンジョン封鎖を手伝ってくれたティッティーとチーム・ハルカゼも招待した。
「おっ、レベルが上がったせいか、もんじゃ焼きを作れるようになっているぞ!」
商品名:もんじゃ焼き
説明 :キャベツと粉、出汁だけのシンプルな構成。
客が自分で調理する。
駄菓子などを持ち込んでも混ぜてもオッケー!
食べると、疲労軽減、体力増強の効果あり。
値段 :200リム
なんと冷蔵庫の中にもんじゃ焼きの材料が入っていた。
「ユウスケ、もんじゃ焼きってなあに?」
ミシェルが興味津々で訊いてくる。
「キャベツと小麦粉を使った料理なんだ。って、実は俺も食べたことはないんだけどね」
もんじゃって関東でもかなり地域が限定される食べ物だと思う。
すくなくとも、俺が住んでいたところにはなかった。
「でも、作り方は動画を見たことがあるからなんとなくわかるよ。俺は粉の準備をするから、ミシェルはキャベツを刻んでくれないか?」
「わかったわ。ティッティー、手伝いなさい」
「なんで私が!?」
「貴女は普段料理をまったくしないわよね? それではこの先が困難よ。ここにはお店なんてないんだから」
「りょ、料理はマルコがしてくれるのよ」
「マルコだってダンジョン探索で忙しくなるわ。彼に頼りっきりというわけにはいかないでしょう?」
「わ、わかったわよ……」
ミシェルに促されてティッティーは渋々包丁を握った。
「この上なく似合わないですね……」
リガールが俺の横でボソリとつぶやく。
成長とともに少し口が悪くなっているな。
「ティッティー様がお料理を……」
悪態をつくリガールとは対照的にマルコは感動の目つきでティッティーを見つめていた。
「それじゃあ、私がお手本を見せるから真似してみてね」
ミシェルはティッティーにキャベツの切り方を教えたが、結果は散々だった。
「キャーッ! 指から血がっ! これは呪われた武器だわ! 人殺しぃーっ!」
「貴方が不器用なだけよ……」
包丁で指を切る、回復魔法、また包丁で指を切る、回復魔法、これの無限ループみたいになってしまったよ。
ただ、ティッティーの回復魔法は役に立つことがよくわかった。
今後はルガンダの魔女として大いに頑張ってもらうとしよう。
大騒ぎのもんじゃになってしまったけど、味はとても美味しかった。
ベビームーンラーメンを入れて焼いたら、これはこれで美味しかった。
商品名:ベビームーンラーメン
説明 :フライ麺風のスナック菓子。
チキン味や明太子味などがある、
食べると、動きにキレがでる。
値段 :30リム
こういうのは大勢でワイワイと食べるのが美味しいと思う。
到着祝いということで倉庫からビールを出してみんなで飲み、さらに焼きそばなどを作って、その夜は楽しい宴会となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます