第103話 王道のストーリー


 翌日は早朝から二手に分かれて活動を開始した。

一つは助役のナカラムさんが率いる区画整理チームで、もう一つはダンジョンに潜る冒険者チームだ。

俺は駄菓子で冒険者をサポートすべくダンジョンへ潜ることにした。


 宅地の一区画は三百坪にする予定だ。

家を建て、家畜小屋を置き、家庭菜園くらいはおける広さだろう。

これは後で抽選をして所有者を決めることになる。


 区画整理の様子を眺めながらメルルが憂鬱そうなため息をついていた。


「はぁ……、心配だなぁ。私はくじ運が悪いから、ダンジョンの横とか、公衆トイレの横の土地になっちゃうかも……」


「そんな場所に住宅地は作らないから安心しろよ。まあ、将来的にダンジョンの横は商業価値が高くなりそうだけどな」


「どうせなら領主館の近くがいいよ。遊びに行くのに便利だもん」


 いつまでたっても子どもっぽさが抜けないメルルだが、そんなところがかわいかったりもする。


「つまらないことを心配していないで、そろそろ俺たちもダンジョンへ行くぞ。今日は地下一階の調査のみだけど、全員気を抜かないようにな!」


 ミシェルを先頭に、俺たちはダンジョンへ突入した。



 ルガンダのダンジョンは王都のダンジョンとは比べ物にならないくらい小さい。

入り口の幅も二・五メートルくらいで、天井の高さも四メートル未満だ。

もっともこれは地下一階のことで、深層がどうなっているかはわからない。


「各チームはしっかりマッピングしてくれよ。あとで全部を繋ぎ合わせて全体像を把握するからな。それから、何かあったときはこの笛を吹いて仲間を呼ぶんだ」


 俺は店の新商品を冒険者たちに配った。


 商品名:笛ミンツ

 説明 :砂糖菓子。サワー、レモン、オレンジ、の三種類。

     食べると水・氷冷系魔法の力が若干アップする。

 値段 :30リム


 このお菓子はプラスチック製の小さな箱に入っているのだが、ふたの部分をスライドさせると笛になる。

この笛が予想以上に遠くまで響くのだ。


「おっ、これけっこう美味いなっ! ボリボリ」


「ばっ! ガルム、なに全部食ってんだよ」


 ガルムは笛ミンツを一気に口に流し込んでいる。

ガルムだけでなく、彼の仲間も同じことをしていた。


「だって俺、水魔法も氷冷魔法も使えないもん。ヤハギさん、こんどはオレンジ味をくれよ」


「欲しいなら金を出して買ってくれ。こっちもルガンダの開発で金なんていくらあっても足りないんだからな」


「へいへい。まあ、俺たちが頑張って魔石をとってくるから、そいつでここを発展させてくれよ」


 魔石は領主が買い取り、国に卸すのだ。

その際の差額が利益となり、領主の懐に入る。

もっとも、当面は出費が続きそうなので利益なんて出ないと思うけどね。


「しっかり頼むぞ。それと笛は捨てずに持っていろよ。何かあったときの合図なんだからな」


 十チームが手分けをしてダンジョンの調査を開始した。


 王都のダンジョンと同じで地下一階にたいした敵はいなかった。

一般的にダンジョンは深くなるほど魔素が濃くなる。

強力なモンスターは魔素濃度の濃い場所に現れるから、表層にいるのは雑魚ばかりというわけだ。

ただ、このダンジョンは人の手が入っていなかったこともあり、モンスターの数はやたら多い。


 伝説の釘バットを下げたマルコが汗を拭きながら銅貨と魔石を拾っていた。


「ふぅ……。歯ごたえのない敵ばかりですけど、数が揃うと儲けは大きくなりますね」


 マルコは今日も最前線で頑張っているのだ。

ティッティーがいることもあって、いつもより気合が入っているようにも見える。


「どれくらいの利益が出てるんだい?」


「二万リムはいっていると思いますよ」


 チーム・ハルカゼは四人+ティッティーなので一人頭四千リムか。

昼前でそれだけ稼げれば悪くない成績だ。


「地下二階へ行けばもう少し実入りは良くなるはずだよな。みんなが暮らしていけるようで安心したよ」


 談笑しながら歩いていると、突然壁際の岩が動き出してティッティーに襲い掛かってきた。


「ストーンクラブ!」


 ストーンクラブは岩石に擬態するカニのモンスターだ。

こいつは防御力が高く、仕留めるのが厄介な敵である。

王都のダンジョンでも地下三階より下にいるような強敵だ。

このようなイレギュラーがあるのでダンジョンは一筋縄ではいかない。


「クッ、ウィンドカッター!」


 ティッティーの魔法がストーンクラブめがけて放たれたが、分厚い甲羅の前に霧散してしまう。

こいつに有効な魔法は火炎系だが、ダンジョンになれていないティッティーは知らないのだろう。


「ティッティー様!」


 マルコが素早くストーンクラブとティッティーの間に体を滑らせ、伝説の釘バットを振り上げた。

固定ダメージを与えるこの武器は防御力が高いモンスターを狩るのにはもってこいなのだ。


 ガッ! ガガッ!


 体に無数の穴を空けられてストーンクラブは大地に沈んだ。


「ティッティー様、お怪我はありませんか?」


「え、ええ……。大丈夫よ」


 ティッティーは茫然とマルコを見つめている。


「よかった。すみません、私がぼんやりとしていたからティッティー様を危ない目に遭わせてしまいました」


「そ、そんなこと……。あ、ありがとう。よくやってくれたわ(やだ、マルコってばカッコいい……)」


 二人はなにやらラブラブのオーラを放っている。


「あ~、はいはい。魔石とお金を回収したらさっさと先へ進むよ~」


 チームリーダーのメルルは手を叩きながら皆を促した。

だが、ミシェルはぼんやりとしながらつぶやく。


「いいなぁ、私も守られてみたい」


 そう言われてもミシェルは最強の冒険者だもんなぁ。


「努力はするさ。ミシェルがピンチの時はなにがあっても守るよ」


「本当に? だったら能力を下げる駄菓子をちょうだい!」


「なんでまた?」


「それで弱くなってユウスケに守ってもらうの!」


 また唐突にくだらないことを思いついたな。


「そんな駄菓子は扱ってないよ」


 ミシェルの様子を見てティッティーは小ばかにしたように笑った。


「なんなら私が呪いをかけましょうか? 姉さんがナメクジみたいに弱くなっちゃうやつ。そうすればヤハギが一生懸命守ってくれるわよ」


「それもいいわね!」


 よくないだろう……。


「でも、ティッティーの呪い程度だと簡単に解けちゃうのよね」


「なんですって! キーッ! 口からミミズを吐き続ける呪いをかけてあげましょうか?」


 突如勃発した姉妹喧嘩にリガールが肩をすくめた。


「いっそユウスケさんに手錠でもかけてもらえばいいんじゃないですか?」


 馬鹿、なんてことを言うんだ。こいつは本気にするぞ。


「それ、いいかも……」


 やっぱり。


「ダンジョンでバカなことをしちゃダメだろ。そろそろ正気に戻れよ」


「え~、繋がれるのっていいじゃない。束縛されてるって感じがしていいかなって……」


 リガールのせいでミシェルが変な性癖に目覚めちゃったじゃないか! 


 その後もなんだかんだとミシェルはごねたが、夜になって部屋でSP(要人警護)ゴッコをすることで満足してもらった。

ストーリーは王道で、王女と護衛騎士の禁断の愛の物語だ。

楽しかったけど、まあまあ疲れた……。


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