第75話 聖鎧
朝ごはんのパンケーキを食べながら、ミシェルと明日の買い物について話し合った。
「先に武器を買う? それとも防具?」
「俺に武器は要らないなあ」
「ユウスケには八連発ピストルがあったわね。それに、いざとなれば伝説の釘バットをなんていうすごいのもあるし」
「いやいや、あれは景品だって」
駄菓子屋の主人といえども、景品のおもちゃを自由に使うことはできない。
たとえばチョコレートバットの特賞『伝説の釘バット』。
これは固定ダメージが与えられる非常に便利な武器だけど、チョコバットのくじで『ホームラン』を引き当てた人のみが所有できる。
これと同じように、くじ引きのおもちゃなども勝手に使うことは許されない。
魔法的な契約でそうなっているのだ。
もちろん、自分のお金で商品を買い、当たりくじを引けば、それは自分の持ち物になるけどね。
「じゃあ、自分のお店で欲しいものがあったら?」
「当たりくじを引くまで身銭を切るしかないね。いわゆる大人買いってやつさ。まあ、なるべくそれはしたくないんだけどね」
「どうして?」
「お客さんのための商品だからな」
駄菓子のヤハギは俺の魔力を対価に商品を仕入れる。
当然ながら俺の魔力には限界があり、仕入れ量もそれに準ずるのだ。
自分で好き放題に使っていたら、お客さんにまわす商品がなくなってしまうのは当たり前のことだ。
そりゃあ、モンスターカードチップスを買い占めたこともあったけど、なるべくならやりたくない。
「そう言う理由ならこれは使えないわね」
ミシェルがつついたのは、くじ引きオモチャの特賞であるセイリュウの盾だ。
小さなラウンドシールドだけど、3回だけなら、どんな攻撃も跳ね返してくれる優れものである。
ムラサメレプリカと同じように、使用回数を超えれば塵となって消えてしまう商品だ。
「これを目当てに通ってくれるお客さんもいるんだぜ。俺が使うわけにはいかないよ」
「ユウスケってそういうところが真面目よね」
「真面目というか、お客さんたちの悲しい顔が見たくないだけだよ」
ルーキーが小銭を握りしめてやってきたのに、お目当ての商品がなかった、なんてことはなるべくしたくないのだ。
「じゃあ、やっぱり明日は私と防具の専門店へ行きましょう」
「装備屋については詳しくないから、店の選択はミシェルにお任せするよ」
明日は久しぶりのデートか、そう考えれば楽しみだ。
見れば、ミシェルもニコニコと俺を見つめている。
きっと同じ気持ちでいてくれているのだろう。
「装備で思い出したけど、今日は新商品が入っていたわよね。箱に鎧の絵がついているけど、あれはなに?」
言われて俺も思い出した。
今日から新しいお菓子が店のラインナップに加わった。
値段は少し高いのだけど、おもしろそうなアイテムである。
商品名:オンリーワンガム(期間限定商品)
説明 :板ガムが一枚とおまけがついている。
おまけは聖騎士たちが使う甲冑の精巧なスケールモデル。
金属製で本物と見紛う出来栄え。
値段 :300リム
前世の日本でもよく見た高級食玩ってやつだ。
「玩具が本体、お菓子がおまけ」なんて
これもまあ、そんな感じだろう。
でもこれ、売れるのだろうか?
うちのお菓子は不思議な能力を秘めているものばかりだ。
たった10リムで買えるガムだって魔力を補給する力がある。
だけどオンリーワンガムにはそんな効果はないし、おまけの甲冑だって人間が着けるにはあまりに小さいミニチュアだ。
見て楽しむ分にはじゅうぶん以上に魅力的なんだけど、お金のないルーキーたちが買うかは疑問だ。
実物を見るために、金を払って商品の一つを開けてみた。
「へえ、よくできているなあ……」
細部まで作りこまれた甲冑は重厚かつ非常に美しい。
バラバラの甲冑を組み合あげると、魔力を帯びて青く輝きだした。
かなりいい映えをしている。
湧きたつオーラを見ていると特別な力があるのかな? という気持ちにもなる。
「おおおっ……。それはまさか、伝説の『
震える声がすると思ったら、ヤハギ温泉の場所を教えてくれたノームの長老たちが、俺のことをじっと見あげていた。
「お久しぶりです長老。聖鎧ってなんですか?」
「聖鎧とは伝説の十二聖騎士が身に着けていた甲冑のことじゃよ」
「いやいや、これはガムのおまけでして……」
「ガムのおまけ? どう見ても戦乙女シャカシャカの甲冑にしか見えんのじゃが……」
サイズ的にはノームが身につけるのにぴったりの大きさだな。
「長老、着てみます?」
「よいのかっ!?」
「どうぞ、どうぞ」
ノームたちには家具のガチャをお買い上げいただいた恩もある。
それに、この甲冑が気に入ってくれたら、また買ってくれるかもしれない。
「イッチッチ、スクラッチッチ。儂に鎧を着せておくれ」
「ほいきた、長老」
「お任せを!」
お付きの二人に聖鎧を着せてもらった長老は静かに目を閉じた。
「うーむ、儂の中の魔力がどこまでも広がっていくようじゃ……。今ならノームに伝わる究極奥義・
マジですか!?
ただのガムのおまけだと思ったのに、ノームにとってはすごいお宝みたいだぞ。
「ヤハギ殿……在庫をすべてもらえるだろうか?」
「あ、はい……よろこんで」
十二個あったオンリーワンガムはすべて売れてしまった。
しかもこれは期間限定だけあって、もう補充はされないようだ。
長老はニコニコ笑いながら俺に語りかける。
「ヤハギ殿にはまた世話になった。このような至高の宝を3600リムで売ってくれたのだからな」
「まあ、定価なんで……」
特売はやっても、値段を釣りあげることはできない。
そういう性分だから仕方がない。
「これはまたお礼をしなければなりませんな」
長老の瞳がキラキラと輝いている。
温泉の時のように、またダンジョンの秘密を教えてくれるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます