第32話 第一回モバイルフォース格闘大会
朝に店へ来てくれた常連さんたちにモバイルフォースの大会を宣伝しておいた。
「今日はモバフォーのトーナメント戦をやるから、よかったら夕方も寄ってくれよ」
「えっ、本当かい? 俺も参加していいの?」
「ガイルはグフフを持っていたよな。モバフォーを持っている人なら誰でも参加可能だよ。仲間にも声をかけといてくれ」
「わかった。じゃあ仕事終わりに顔を出すよ。クゥ~、楽しみだなあ!」
「おいおい、仕事に集中しろよ。ケガなんてしたらつまらんぞ」
「わかっているって。ちゃんと切り替えるから大丈夫さ」
本当に頼むぜ。命の危険がある仕事なんだから。
「ググレカスの
「バーカ、俺のグフフの方が強いって」
ガイルたちは興奮した様子でガヤガヤと話しながら行ってしまった。
トーナメント大会がよほどうれしかったようだ。
俺も大会を開いた甲斐があるというものだった。
夕方になるとトーナメントの参加者が続々と集まりだした。
ミネルバやメルルにミラ、それに加えてガイルたちなどの常連さんが中心だ。
若い冒険者ばかりかと思ったけど、中年のベテラン冒険者の姿もちらほら見える。
モバフォーは世代を超えた人気があるようだ。
最終的に32人の参加希望者が集まったところで本日のエントリーを打ち切った。あんまり多すぎると収拾がつかなくなるからね。
観戦者にいたっては100人以上がいたと思う。
ヤハギ温泉の前室は人でいっぱいになってしまった。
「それじゃあ、そろそろ始めるぞ!」
五つの闘技場を使って試合が始まる。
優勝が決まるまでは三十一試合をこなさなきゃいけないから効率よく進める必要があるのだ。
第一試合から熱い戦いが繰り広げられている。
おや、あちらの闘技場ではもう決着がついたのか?
開始からまだ二分も経っていないというのに。
「すげえ、さすがは死神ミネルバだ!」
「銀仮面つええっ!」
どうやらミネルバが早々に対戦相手をノックアウトしたようだ。
ミネルバのキャンがザコに強烈な突き技をキメて圧勝したらしい。
「おめでとう、ミネルバ」
「まだ一回戦だからな」
ミネルバは余裕の貫録を見せつけている。
それに比べて最近ガンガルフを手に入れたばかりのリガールが肩を落として店にやってきた。
「負けてしまいました」
「そういうこともある。機体の損傷は?」
リガールはガンガルフを大事そうに抱きしめて首を振る。
彼はポーターをしながら一生懸命300リムを貯めてこれを買ったのだ。
モバイルフォースは頑丈にできているけど、激しい戦いのときは損傷することもあるのだ。
そうなると部品を付け替えるか、新しい機体を買うしかない。
「こわれていません」
「それは良かった。だったらまた挑戦できるじゃないか」
「僕、こんなに何かに夢中になったのは初めてなんです。毎日が本当に楽しくて! 次の大会もすごく楽しみにしています!」
駄菓子屋でよかったと思うのはこんな瞬間だ。
彼らが熱心に通い詰めてくれるから俺はここで頑張れる。
誰かに必要とされるっていうのはやっぱり嬉しいことだ。
それにしても、これでうちの商品にプチ四駆とかが加わったら大変なことになりそうだな。
まあ、それはそれでおもしろそうだけど……。
トーナメントは進み、ベストエイトが選出された。
常連であるミネルバ、メルル、ミラ、ガイルなんかもトーナメントに残っている。
今回の大会にはエッセル男爵も駆けつけてくれたけど、彼は一回戦敗退となってしまった。
「いやはや、もう少しだったんだがなあ」
「
「うん、次の大会ではいいところを見せたいよ」
貴族というのは暇なようで、エッセル男爵はここのところ毎日モバフォーの試合をしている。
いちおう、10リムゲームで国王のために万能薬をとるという建前はあるようだけど、挑戦しているのは部下たちだ。
毎日3000リム以上使っているけど、いまだ新しい万能薬は取れていない。
試合は進み準決勝を戦う四人が選出された。
その中にはミネルバとメルルの姿もある。
「やられてしまいました!」
珍しくミラが不機嫌な感情をあらわにしていた。
普段は穏やかでのんびりいているのだが、ベストフォーに残れなかったのがよほど悔しかったようだ。
「まあまあ、今夜はみんなで大会の慰労会をしようぜ。俺がご馳走するよ」
「本当ですか!? うわー、どこに行こうかな」
店は儲かっているし、メルルやミラ、ミネルバには普段から世話になっている。
「聞こえたぞ! いま、ミラをデートに誘っていただろう!?」
ミネルバはどうして涙声なんだ?
それにどこから湧いて出たんだよ?
「みんなで大会の慰労会をしようと言っていたんだよ。ミネルバも行くだろう?」
「う、うむ。当然だ」
「だったら優勝してこいよ。勝利の美酒を飲ませてやるから」
「それくらいどうということもない(絶対に優勝よ!)」
「いーえ、優勝は私とレッドショルダーがいただくんだから。ユウスケさん、大会が終わったらランキング表をつくろうよ。チャンピオンの部分にはメルルの名前が永遠に刻み込まれるの」
「おうおう、がんばってこい」
二人は気合を入れて準決勝に臨んだ。
しかしメルルのレッドショルダーは残念ながらベテラン冒険者の操るジュジーオングに負けてしまう。
「もう、手が伸びて後ろから攻撃してくるなんて反則よ!」
メルルはぷりぷり怒っていたけど、機体を動かしながらそういった攻撃を仕掛けるのだって相当な技術がいるのだ。
今回は相手の魔力操作が一枚も二枚も上手だったと言うしかない。
一方、ミネルバは薙刀を持ったググレカスを余裕で下し決勝にコマを進めた。
「ミネルバ、つええ! モバイルフォースの扱いがあれだけスムーズなやつはそういないぞ」
「それだけじゃない。もともとの剣のセンスが段違いなのよ」
メルルも素直に褒めるくらいミネルバは強かった。
決勝はメルルを破ったジュジーオングとミネルバのキャンとの一騎打ちだったけど、光速の突きが一閃してキャンが勝利を収めた。
「おめでとう、ミネルバ。すごいものを見せてもらったぜ」
「たいしたことない……(うれしい、うれしい! うれしい♡)」
「メルルは残念だったな」
「うわーんっ! 私のレッドショルダーが……」
メルルの機体は破損して敗退し、彼女の戦績は四位で終わっている。
「さて、三位までの人には駄菓子のヤハギから副賞の受け渡しがあるよ!」
俺はそれぞれの選手に商品を手渡して健闘を讃えた。
「すっごく盛り上がったから近いうちにまた大会を開こうと思うけど、みんな、参加してくれるかい?」
「うおおおおおおおおお!」
会場が爆発してしまうくらいの大盛り上がりで大会は幕を閉じた。
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