第31話 頼りになる相棒


 発売から四日が経ったが、モバイルフォースシリーズは売れに売れていた。

毎日四十箱が補充されるのだが、二時間もしないうちに完売になってしまうのだ。

しかも冒険者だけでなく一般の人までもが興味を示し、わざわざ護衛を連れて地下二階の矢作温泉までプラモデルを買いに来るという事態にまでなっている。


「これは魔力操作の練習にもってこいのオモチャなのだ」


 自分のキャンに優雅なダンスをさせながらミネルバが教えてくれた。

どうやら知育玩具的なポジションも確立しつつあるようだ。

モバイルフォースはラジコンくらいのパワーしかないから危ないということもない。

子どもでも安心して遊べるオモチャなのだろう。


「ザコとは違うのだよ、ザコとは!」

「なめるなッ! 私がいちばんガンガルフを上手に動かせるんだっ!」


 店の横に設置した特設リングでは、今日もモバイルフォースを使った熱い試合が繰り広げられている。

お客さんのためにと作ってはみたけど、ここまで盛り上がるとは正直思っていなかったぞ。

朝に夕にと人々が集まり、試合参加と観戦を楽しんでいるのだ。


「快勝、快勝! ユウスケさん、ラムネをちょうだい」


 試合を終えたメルルが頬を上気させながらやってきた。


「また勝ったのか?」

「そうよ、私のレッドショルダーは一味違うんだから」


 メルルは自分のザコの肩プロテクターを赤くペイントしている。

いろいろなものが混ざっているなあと、日本生まれの俺は複雑な気持ちになった。


 最初の内はプロレス形式の試合が多かったんだけど、最近では武器を使った近接戦闘の試合が増えている。

鍛冶屋のサナガさんが手慰てなぐさみでミニチュアの武器を作ったところ、これがプレーヤーに大うけとなった。


「ヤハギのおかげで大儲けだぜ。本業より忙しくなっちまった」


 サナガさんのところには発注が相次ぎ、生産が間に合わなくなっているくらいだ。

昨日からはなんと弟子までとってモバイルフォース用の武器生産をしている。


 モバイルフォースは一定以上の衝撃を受けると魔力リンクが切れるという性質がある。

そうなったらノックアウトとなり勝敗が決まるわけだ。


「ユウスケさん、これだけ盛り上がっているのですからモバイルフォースの大会を開きましょうよ」


 ミラが自分のドームをなでながら提案した。


「ほう……おもしろそうだな」


 ミネルバも乗り気のようだ。

みんな夢中だから参加者はたくさん集まるだろう。

日頃のご愛顧あいこに感謝を込めて、大会を主催するのも悪くないな。


「面白そうだからやってみるか。駄菓子のヤハギからも商品を提供するよ。お菓子やおもちゃの詰め合わせくらいしか出せないけどね」


 万能薬を入れておけば副賞としてのグレードは最高だろう。

あれはいまだに取れる人が少ない。


「だったら私もエントリーするわ。私のザコが最強だと証明してみせるんだから!」

「ザコいメスガキが何をほざくか。我がキャンに敵はない。あれはいい機体だ」

「私のドームだって負けませんよ」


 さっそく三人が勝負の火花を散らしていた。



 昼少し前、護衛を連れた貴族がやってきた。

顔見知りのエッセル男爵である。


「ごめんくだされ、ヤハギ殿」

「お久しぶりです。国王陛下のお加減はいかがですか?」

「万能薬が効いて、小康状態を保っておるよ。まあ、呪いそのものは消えてないがね」


 エッセル男爵の部下がもう「ダンジョン攻略」の10リムゲームに取り掛かっている。

以前の反省を活かして今回は大量の10リム銅貨を自分たちで用意したようだ。


「それはそうとヤハギ殿、モバイルフォースなる玩具が流行していると小耳に挟んだよ」

「ええ、おかげさまで好評ですよ。今は誰もいませんが、夕暮れ時になるとそこの闘技場で毎日のように試合がはじまるのです」

「ほほぉ、モバイルフォースの在庫はあるかね?」

「今日はたまたま二つだけ売れ残っていますね」


 一つは一番人気のグフフ、もう一つは扱いの難しいジュジーオングである。

グフフにはデフォルトで鞭がついているので、すぐに闘技場参加ができる。

サナガさんのところで売っている剣と盾を装備させるとかなり強いなんて話も聞く。


 一方でジュジーオングは上級者向けの機体だ。

足がなく空に浮かんで移動する。

手が伸びてあらゆる角度から攻撃が可能だが、そのぶんだけイメージと魔力操作が厄介になるそうだ。

俺も動かしてみたけど、空中を自在に動かすのだけでも苦労した。


「これは面白そうだ。二つとも売ってくれたまえ」


 エッセル男爵はその場で箱を開けてモバイルフォースを組み立てている。

少し練習して動かせるようになると部下の兵士と格闘戦をして楽しんでいた。


「これは実にいい! 皆が心を奪われるわけだな」


 この人は貴族だけど気取ったところがない。


「近いうちにモバフォーの大会を開くのですが、良かったら男爵も参加しませんか。優勝賞品には万能薬もつきますよ」

「なんと! それは私も参加できるのかね?」

「モバイルフォースを持つすべての人が参加できます」

「これは腕がなるぞ。今日から必至で練習せねばなるまいな」


 エッセル男爵はカレーせんべいとラムネでおやつを済ませ、温泉に入ってからもう一本ラムネを飲んだ。

そしてお帰りの際にお土産としてさらに5本を買っていった。

よほど気に入ったのだろう。


 参加者が多いようなら特設リングを五つくらいつくらなければならないな。

ここは頼りになる相棒に依頼するか。


「ミネルバちゃ~ん!」

「な、なんだ、妙な呼び方をして」

「お願いがあるんだけどさぁ」

「き、聞くだけなら聞いてやる(早く言って、何でも叶えてあげちゃうから!)」

「土魔法でモバフォーのリングをあと四つ作ってほしいんだよ。いいかな?」

「ふん、どうということはない(ユウスケの役に立ててうれしい♡)」


 さすがはミネルバだ。

なんだかんだ言っても快く引き受けてくれた。


「お礼は何がいい? うちの商品なら好きなのを持っていってくれ」

「別にいらん」

「遠慮するなよ。新商品のみかん水を飲んでみるか?」

「それだったら………………」

「どうした? 言ってみろよ」


 ミネルバはたまにとんでもなく遠慮深くなる。

困ったものだ。


「最近、魔法研究が滞っていて肩が……あ、あう……」

「なんだ、肩こりでまたマッサージしてほしいのかよ? いいぜ、そのくらい! みかん水もつけてやる」

「う、うむ(勇気を出してよかった。三秒前の私、グッジョブ!)」


 ミネルバはすぐさまリングを作ってくれて、俺は念入りに彼のマッサージをしておいた。

こうしてみるとホントにミネルバの体って華奢だよな。

なんだかぷにぷにしているし。

まるで女みたいじゃん。

おんな……?


「どうした?」


 いや、気のせいだな。

こんなドスの利いた声の女がいるわけねーか。


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