第30話 モバイルフォース
またもやレベルが上がった。
屋台のような店は、俺が念じればデパートの売り場ブースのようなレイアウトが可能となり、温泉部屋の一角で少し立派な店舗を広げられている。
売り場が拡張されたこともあり新商品も増えた。
その朝、俺はその新商品を見つけて思わず声を震わせた。
「なんてこった……」
かつて、日本の駄菓子屋やおもちゃでとあるプラモデルが売られていた。
それは国民的人気を誇ったロボットアニメーションの商品をパク……オマージュした商品と言われていたが、今回うちの店にやってきた商品は、そのオマージュ商品をさらにオマージュしたものだった。
商品名:モバイルフォース・ガンガルフ
説明 :ロボットプラモデル。接着剤を使わずにはめ込むだけで作れます。魔力操作により動かすことが可能。
値段 :300リム
主役ロボのガンガルフや
完成品のロボットは手のひらサイズでノームより小さいくらいだ。
だけど重量は別で、見かけよりもずっしりと重い。
内部に金属でも入っているのだろうか?
「なんだこれは? ホムンクルス……というよりはゴーレムに近いな」
今日も遊びに来ていたミネルバが興味を示した。
「これはプラモデルと言って組み立てて遊ぶんだ。もっともこの世界のプラモは魔力で動かして遊べるみたいだけど」
「おもしろそうだな。一つくれ」
ミネルバは騎士のような甲冑をまとったキャンという機体を選んでいた。
俺も主役のガンガルフを選んで箱を開ける。
「組み立ては簡単だぞ。こうやって、腕部や脚部をボディーに挟み込むだけだ」
関節はすべて可動式になっていて、俺の知っているガン〇ルよりも作りこんであった。
これで300リムとはさすが異世界だ。
五分もかからずにプラモは完成した。
箱の説明書きによると、完成したロボットを額にくっつけることで魔力リンクが生まれるらしい。
俺の使える魔法と言えば『開店』と『閉店』くらいだけど、魔力は保有しているはずだ。
それなら俺だってガンガルフを動かせるはずなんだ。
「おお!」
機体をおでこにつけた瞬間、電気のような糸のような、よくわからないもので繋がった気がした。
俺はガンガルフを床に立たせて念を送る。
足を踏み出せ!
すると俺のガンガルフはぶるぶると小刻みに震えながらも、ゆっくりと右足を一歩前に出すではないか。
「こいつ動くぞ!」
俺が感動で打ち震えていると、ミネルバが作った青いキャンがガンガルフの横をスタスタと歩いていた。
俺のガンガルフよりずっとスムーズだ。
「ミネルバのモバイルフォースは化け物か!?」
「より細かいイメージを伝えるとその通りに反応するようだ。安定操作には一定の魔力をキープする必要がある。逆にパワーを出したいときはパワーを強めればいいわけだが、魔力が強すぎると機体が動かなくなってしまうようだ」
キャンは飛んだり跳ねたり新体操選手のように滑らかな動きを見せた。
くそ、俺だって……。
「いけ、ガンガルフ!」
頭の中ででんぐり返しのイメージを浮かべ、それをガンガルフに伝える。
ガンガルフはゴンと頭をぶつけながらも足を揃えて床の上を回転して綺麗に立ち上がった。
「おお、やったぞ!」
「ユウスケもだいぶ慣れてきたな」
なんとなくコツを掴んだぞ。
要は魔力とイメージを中断させずに、スムーズに送ればいいわけだ。
「よーし、行くぞ、ミネルバ!」
俺はガンガルフを操りキャンにタックルさせる。
突然の奇襲を受けてキャンは倒れてしまった。
「な、なにを?」
「プロレスだよ、プロレス。相手の両肩を床につけて3秒数えたら勝ちな」
俺は押さえこみの体勢に持っていこうと、キャンの太もも部分を抱えて立ち上がる。
ミネルバは何とか逃れようと身をよじった。
「ちょっと、人形を使ってなに
メルルとミラが遊びにやってきた。
気が付くと店の常連たちも俺とミネルバの試合を見守っている。
「卑猥とはなんだ。これはプロレスだぞ」
「プロレス?」
「ていうか、プラレス?」
俺はみんなにプロレスのルールを説明した。
「なんだかおもしろそうね。300リムだっけ?」
「ああ。こいつはお買い得だと思うぞ」
「じゃあ、このザコっていうのをちょうだい。なんか気に入っちゃった」
量産機にロマンを感じるとは、メルルは見所がある……。
「私にはドームをください」
ミラも買うのか。
「俺はググレカス!」
ガルムも買うの?
「いいなぁ……、僕も欲しいなぁ。なんとかお金を貯めないと」
リガールも欲しいのか。
朝のうちに四十個あった在庫はすべて売れてしまった。
中には一人で六種類も買う冒険者もいたくらいだ。
俺も店主として調べてみたけど、一体ずつ機体特性が違うことがわかった。
量産型ザコはパワー不足だけど一番操縦がしやすかったし、高機動ググレカスは早いんだけど、魔力操作が難しいなんて感じだ。
どの機体にも一長一短があるが、やっぱり主役のガンガルフがいちばん安定している気がする。
「ヤハギさん、モバイルフォースっていう新商品があるって聞いたんだけど」
息せき切って少年の冒険者が駆けこんできた。
「ごめんな、全部売り切れなんだよ。明日には補充されると思うからまた来てな」
肩を落として帰っていく冒険者を見ながら、俺は新たな流行の予感を感じていた。
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