Like an angel.(9)

 目を真っ赤に腫らした元主人に見送られ、俺と天使は屋敷を出た。暫く歩いたところで天使は変身を解き、ひと月振りに見る姿に戻った。ずっと俺の膝の辺りで動いていた顔が肩の下あたりにきて、ホッとする。

「ラブ、今回は本当に世話をかけたね。まさかこんなに長い間、記憶が戻らなくなるなんて思わなかったよ」

「まったくだぜ。天使サマの変身音痴にも困ったもんだ」

 肩をすくめて見せると、天使はくすくす笑った。

「しかし、お前のメイド姿はよく似合っていたな」

 思い出したのか、天使はひとり、うんうんと頷いた。

「そうか。天使サマに似合っていると言われるのは嬉しいな」

「うん。本当によく似合っていたからね。……子供の姿でいた時も、私はお前が好きだったよ。ひと目見た時、このメイドさんと結婚したい、って思ったんだ。お互い姿も年齢も違っていたし、私はお前のことをすっかり忘れていたというのにね。ふふ、少し不思議だね」

 顔が熱い。

「俺だって、お前が子供の姿だろうと関係なく好きだったさ。何度攫ってしまおうと思ったか」

「だけど、お前はしなかった。やろうと思えば屋敷の人間たちの記憶を消して、私を攫ってしまったってよかったのに」

 俺の腕に自身の腕を絡ませ、天使は温かい体を寄せてきた。

「……お前が人間の生活を知る、良い機会になると思っただけさ」

 天使は麗らかな陽光に目を細め、頷いた。

「うん。ありがとう」

「どういたしまして」

 顔を見合わせて、微笑みを交わし合う。久方ぶりに肩を並べて歩けることの幸せが、俺たちを包んでいた。

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