Like an angel.(8)

 警官からの連絡を聞き、私はとうとう、来るべき時が来たと悟った。死んだ息子のように、天使のように愛らしい少年の、家族だという男から連絡があったという。

 照会の結果、少年がその男の肉親であることが判明した。男は今日、彼を引き取りに来る。

 応接室で少年と並んで座り、その輝く金色の髪を見ていると、最初の日の晩に目頭を熱くした涙が溢れてくるのを感じた。

 結局、私はこの子の名前も知らないままだった。名前で呼ぶことさえ、その頭を撫でることさえできなかった。

 でも、それは当然だ。この子はこの子であって、私の息子ではない。私が軽々しく呼んだり撫でたりできるような子供ではないのだ。

 この子は、あの子では。

「…………っ、」

 思わず嗚咽を漏らしそうになって、私は天井を見上げた。泣いてはいけない。この子の家族が見つかったのは幸せなことなのだ。私は、笑顔で送り出さねばならないのだ。

「おじさま」

 呼びかけられて、私は必死に涙を堪えながら少年を見た。少年はこの間よりよほど大人びた表情を浮かべて、その青い宝石に私を映した。

「ぼくは、ほんのひとときの間でもおじさまのもとで過ごせて、とても幸せでした。ぼくがこんなに幸せだったんですから、きっと、おじさまの本当の息子さんも、幸せだったと思います」

 うまく息ができず、私はとうとう袖を濡らした。

「うっ……うぅ……」

 長いこと生きてきて、それなりに悲しみや苦しみも分かっているつもりでいた。だが、このひと月で思い知った……私はずっと、自分で思っているよりも、悲しかったのだ。愛していた妻と息子を失ってから、ずっと、ずっと。

 止まらない涙を拭い続ける私のそばにぴったりと寄り添う少年の温かさが、私が見ないフリをしてきた感情を、そっと抱いてくれる。

 そんな気がした。

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