Like an angel.(1)

 富める人間はむやみやたらに広い土地を欲しがるものだ。都会のように土地のない場所でなら、その広さは高さにとって代わられる。広いか、高いか。もしくは、そのどちらをも兼ね備えるか。

 そして、そこにある邸宅は、豪勢であることが基本だ。

 自らのステータスを示すため、人間は古くからその財力を他に見せつけなくては満足しない。落ち着かないと言ってもいいかもしれない。凡人と富める者とを明確に画すひとつの指標として、住まいというものは非常に分かりやすいといえよう。

 つまり。俺が今から他のメイド達に指示して完璧に飾り付けをしなくてはならないこの豪邸は、富める者の中でも特に富める者の住まいであるということだ。

「メイド長! 料理長が至急、来てほしいと」

 執事長に声をかけられ、俺は焦らず頷いて見せる。

「承知しましたわ」

 クラシカルなメイド服のフォルムを乱すことなく階段を迅速に降り、料理長の元へと馳せ参じる。メイド長の仕事は多く、過酷だ。まあ、それは人間にとっての話で、魔法が使える悪魔にとっては、全くたいしたことはないが。

 料理長と食材の話を終えて持ち場に戻ろうとした俺は、階段の踊り場で、俺をじっと見つめる少年に気がついた。ふわふわの金髪が儚げな顔の輪郭にかかり、大きな青い瞳は天上の輝きをいっぱいに湛えている。華奢な体躯は上等な子供用のスーツに包まれ、まさに上流階級の子息そのものだ。

「どうかなさいましたか、御坊ちゃま」

 俺が声をかけると、少年は恥ずかしがって階段の上に身を隠してしまった。

「御坊ちゃま、かくれんぼですか」

 近づくと、顔を真っ赤にしながら、後ろ手に隠していたらしい花を差し出してくれた。あまりの可愛らしさに声が出ないでいる俺に、少年はひとこと「あげる」とだけ言って、廊下を走り去ってしまった。俺の手の中には、一輪の色鮮やかな花が残された。

「……全く。子供になって記憶を失ってもなお、天使サマは天使サマと言うわけだ」

 小さな背中に、白い羽が見えたような気がした。

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