gift
冬の終わりを告げるような花がちらほら見受けられるようになってきた。天使は特に寒さを感じないが、人間たちはまだ肌寒そうに背を丸めて歩いている。風邪などひかないように気をつけてほしいものだ、と思いながら公園を散歩していると、ベンチに座っていた悪魔に声をかけられた。
「よう、奇遇だな、天使サマ。ちょうどホットチョコレートを二つ入手したんだ。一緒に飲もう」
奇遇なものか、と思ったが、男の手の中にあるのは最近この近所にできたばかりの、チョコレート専門店のものだ。確か、普通に買おうとするとかなり並ばねばならないはず。
「……飲むだけだからな」
「結構」
腰掛けると、男は笑みを浮かべた。
「ときに天使サマ、俺のプレゼントはお気に召したかな」
「あ、ああ……紅茶とクッキーだな。紅茶はまだだが、クッキーは美味しくいただいた」
「そうか、そいつは良かった」
そういえば、とふと思う。天使は人々を導きはするが、個人的に物を贈るということはない。善き行いへの神からの恵みは与えることはあるが、それも物質的なものではないことが多い。
予想通りに甘くて美味しいホットチョコレートを飲み下し、私は男の横顔を見た。
「……お前は、何か欲しい物はあるのか」
「お返しをくれるのか? 天使サマが、俺に?」
ニヤニヤと笑うその瞳に、軽率なことを言ったと早くも後悔し始めたとき、男はぽつりと呟いた。
「こうして会えるだけで、今のところは充分だ」
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