第3話 お守り探し

 何か言わなければと思うのに、うまく言葉が出てこない。

 少女はそんな私をしばらく見つめていたが。


「無理はしなくていいんだよ。私は、あなたの本当の声が聞きたいな」


 どこまでも澄んだ優しい微笑み。

 いったい、この少女は何者なんだ。


「私はマリン。海の女神」


 少女は、私の心を読んだかのようにそう笑う。


 何度も言うが、私は高校2年生だ。

 海の女神だなんて、そんな戯言を信じるほど子どもではない。


 でも、この子が本当の女神かどうかなんて、正直どうでもよかった。

 このマリンと名乗る少女には、それだけ不思議な魅力があったのだ。


「私はさ、人と話すのが苦手なんだよね」


 気がつくと、私はマリンに本心を話していた。


「クラスメイトとか同級生から、ノリが悪い子って思われてる。両親が関西出身じゃないから、関西弁もネイティブとは言えない。これって、関西では意外と致命的なんだよね。私、どうして神戸に生まれたんだろう。まあ大阪よりはマシかもしれないけど」


 自分で言って、思わずため息が出る。

 関西という独特の文化が根付くこの地でなければ、もう少しうまくやれたかもしれない。

 話すことへの抵抗も、こんなには生まれなかったかもしれない。


「……ねえ、お守り、あげよっか」

「え?」


 ん? お守り?

 ……そんなに切羽詰まってるように見えたかな。

 やっぱり子どもにこんな話、重かったかも。


「……ありがと。でも、さすがにマリンちゃんから物をもらうわけにはいかないな。ほら、私たち初対面だし」

「初対面……そうか。あなたにとっては、私は初対面なのか」


 マリンは「なるほど!」といった様子で何度もうなずく。


 ……えっと。実際、初対面ですよね?

 こんな子に会っていたら、さすがに覚えているはずだ。


「私は度々あなたがここで海を眺めているのを見てたから、うっかりしてた」


 ん?

 んんんんんんんんんんんん???


「ねえ、一緒にお守り探そ?」

「え、ちょ、待って。見てたって何? あとお守りを探すってどういうこと?」


 聞きたいことが多すぎる。


「お守りはね、自分で探すんだよ。ここにあるすべてがお守りの材料なの」


 ここにある……すべて……?


「んーとね、例えばほら、この石! すべすべしててとっても綺麗でしょ! こっちの貝殻も、この形と手触りがたまらないよね!」

「……たしかに綺麗だけど、お守りって」


 マリンは恍惚とした表情でほおずりしているが、この広い須磨海岸には、無数の石ころや貝殻が転がっている。

 あまりにも漠然とした謎の「お守り探し」に、正直気が遠くなりそうだ。


「これ!って思うものを見つけてみて。あ、この砂浜にあるものだけね。私の領域から出ちゃったものには力が通じないの」


 ――はあ。

 まあ、元はといえば私が近寄ったことから始まった会話だし。

 途中で投げ出すのは、この子の教育上よくなさそうな気がする。


 私は仕方なく、渋々「お守り探し」をすることにした。

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