第5話 サイボーグ追跡

 ガイシャは小川寿英おがわとしひでという『小川商事』の代表取締役だ。

「松尾の盟友だな……戦国時代で言ったら浅井と朝倉みたいな関係だ」

 会議室で天童は言った。

「天童警視って戦国時代について詳しいんですね?」と、鈴江。

「『信長の野望』やったことあるか?」

 朝は機嫌悪そうだったけど、今はフランクだな?と、鈴江は思った。

「あの手のゲームは難しくて……」

「そうなのか?」

「あの、織江さんお腹大きくなかったでした?」

「そうか?」

「もしかしたら妊娠したんですかね?」

「食べ過ぎじゃないのか?」

 鈴江は入水自殺した人間を見たことが何度もある。

 遺体は一旦水底に沈むが、死後体内で発生する腐敗ガスのせいで、水上に浮上することがあり、自分の遺体がパンパンに膨れ上がって浮上し、野次馬の視線に晒される可能性がある。腐敗ガスによる浮力は、水深の浅い場所では20–30キログラム重にも及ぶ。また遺体がどこに流れ着くか分からず、途中で魚に食べられてしまうため、発見時に他殺遺体なのか自殺遺体なのかの判別も難しい。


 大框大志おおかまちたいしは石碑を眺めながら、大昔のことを思い出した。

 海軍無線電信所船橋送信所は現在の千葉県船橋市行田にあった無線電信所である。地元民からは行田無線、行田の無線塔などと呼ばれた。

 この施設は日露戦争後、聯合艦隊の行動範囲の拡大に伴い東京近郊の東葛飾郡船橋町周辺にある塚田村行田(現船橋市行田)に設置された海軍の無線電信施設で、大東亜戦争(太平洋戦争)の時に真珠湾攻撃部隊に「ニイタカヤマノボレ一二〇八」の電文を送信した事で一般に広く知られている(船橋送信所が艦船へ向けて短波・中波を送信し、依佐美送信所が潜水艦に向けて超長波を発信した)。


 無線関係の機器一式はドイツのテレフンケン社製のものが採用され、シーメンス社に発注が行われた。1913年に着工したが翌1914年に第一次世界大戦が起こり日本がドイツに宣戦布告をしたことからシーメンス社の技術者が図面を焼却、帰国してしまい工事は困難を極めたが、1915年4月には開所式が行われ、同年7月ハワイとの間で通信試験に成功。8月より正式に軍用通信が開始された。


 1916年には逓信省の通信所が併設され、外国航行船舶等に乗り組み日本を遠く離れていた船員達に大相撲の結果などを知らせ喜ばれるなど、民間向けにも利用されたという記録も残っている。


 ハワイの無線局と日米間通信が1924年まで行われたが、中でも1923年に起こった関東大震災の際には銚子無線電信所と共に通信が壊滅状態になった東京都心の被害情報を横浜港に停泊中の船舶からの打電を受信して新聞社が集まる大阪市など国内外に発信、救援活動に多大な貢献をした。なお、この出来事は船橋の名を広く世界に知らせるきっかけとなった。一方で不確かな流言もそのまま伝えたため、後日、所長の大森大尉は免職になった。同年、霞ヶ関の海軍省内に受信所が置かれたため名称が「海軍無線電信所」から「海軍無線電信所船橋送信所」に改められた。

 昭和10年代には無線等の鉄塔に建て替えられた。鉄塔の高さは約60メートルから200メートル近くあるものもありランドマーク的な役割を担い、船橋市民(特に西船橋周辺の地域の住民)に親しまれた。


 戦後は進駐軍が接収し、1966年に返還されたが1971年5月19日から解体が開始された(1972年まで)。

 大框は日露戦争中に怪しげな緑色の薬品を飲んで不老不死の体を得た。


 大框は総会屋だ。

 弁護士の花井卓蔵は大正初期、買占め等により会社の支配権を争奪する事例が増えた実務界で攻防両者とも法理論と実務に通じた総会協力者が必要になると考え、久保祐三郎に総会運営を研究するように勧めたと言われる。同時期に洲崎の武部申策は郷誠之助が用心棒を依頼した事を端としてガス、電力会社の総会に自ら足を運び、又は自分の影響下にある田島将光のような人間を出席させている。『総会屋』によると当時の総会屋は業界全体でも150人程度しかおらず会社も儀礼の金銭を渡すだけだったとされる。


 世間の注目を浴びたのは財閥解体後で「白木屋」騒動、「東洋電機カラーテレビ事件」、近江絹糸総会は総会と同様裁判の行方が関心事とされた。御家騒動、乗っ取りなどの事件に介入して知恵を授けたり裏面工作をする黒幕としては戦前からの「大物」として久保、田島の名が高く久保の没後は右翼の児玉誉士夫に師事する一派が台頭したとする説がある。1960年代より小川薫や論談同友会など暴力的な広島グループが世間をにぎわせた。また総会屋の用心棒として周辺にいた暴力団が次第にノウハウを吸収、構成員や関係者を総会へ進出させた結果1970年代の最盛期にはプロ株主の大部分が暴力団関係者とされた。


 1978年、警視庁は増加する総会屋対策として組織暴力犯罪取締本部を設置。 総会屋が主催するゴルフコンペやセミナー、観劇会に対して中止勧告を行ったほか、企業に対しても出席を自粛するよう呼びかけを行った。

 

 総会屋にはいろいろなタイプがある。

 🎙進行係(与党総会屋)

 リハーサルからサクラとして参加し、会社の説明に「原案賛成」「異議無し」「議事進行」の立場で進行を図る者。万歳屋、進行屋などがある。三本締めで総会を終わりとする、無風の「シャンシャン総会」にさせるのが仕事。但し、会社側の態度や対価によっては、総会荒らしに転じる危険も有する。総会屋の司令塔である。


 🏢会社ゴロ(野党総会屋)

 総会で無意味な発言や質問、スキャンダルに関する質問を繰り返し、議場を混乱させることで己の存在を認めさせた上で、その行為を止める事への「対価」として利益を得ようとする者。

 嫌がらせのタイプも幾つかあり、幹事総会屋の下に、攻撃屋、防衛屋、仲裁屋と役割分担し台本を書いて動く者を始め、無意味な株式分割で他の総会屋を呼び寄せる者(分割屋)や、噂をばら撒いて企業の信用を毀損する行為を行う者(事件屋)などが居る。与党総会屋になる者も存在する。


 📰新聞屋(出版屋、雑誌屋、通信社など)

 総会屋とブラックジャーナリストの中間に位置し、新聞や雑誌を発行する。

 新聞ダイジェストだけの季刊雑誌が多い。しかし、月刊誌や業界紙として比較的知名度が高く、一般書店で扱われたものも存在した。1960年代、70年代の学生運動全盛期に隆盛となった雑誌が多い。


 🤝政治ゴロ

 売名目的でのみ立候補し、政治資金の名目で企業から協賛金を強請るが、実際には選挙運動を殆ど行わない右翼系泡沫候補に多い。NPOなどの肩書を隠れ蓑にする社会運動標榜ゴロや、えせ同和なども同類。


 ☔倒産ゴロ

 企業倒産に付け込み、或いは偽計を用いて経営陣に倒産を促し、倒産企業の資産を安く買い叩いたり資本参加して会社を乗っ取る者。破産管財人等の弁護士とも密接に連携し行動する。管財人が、倒産ゴロのために資産を温存し債権者に不利益を与える事もある。実力者になると政治家等とも連携し、裁判所に対しても一定の影響力を持つといわれている。


 👍特許ゴロ

 パテントトロールとも呼ばれ、特許・商標・ドメイン名等を使用企業に先立ち、不正に取得して金銭を得ようとする者。弁護士崩れや弁理士崩れと反社会的勢力の連携が存在する。

 

 千葉県警組織対策課の長崎は、大框を密かに尾行していた。

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