第3話「明かされた真実」
それが始まったのはケイの十七歳の誕生日の次の日。
「約束まであと三百六十四日だね」
年単位から日単位に変わったカウントダウンが始まったのだった。
*
約束の日まで残り一年を切った。
どうしたらいいのか解決策が見当たらない。
誰か相談できるような人がいればいいけど、こんな重要なことを相談できるのはケイくらいしか思い浮かばない。
今更ながらどれだけケイに頼ってきたのだろうか。
だからと言って、まさか本人にどうすればいいのかなどと相談するわけにもいかない。
考えた末に、古い付き合いの友達を呼び出した。
「よう悠馬。久しぶり」
「修吾。良く来てくれた」
幼稚園から大学までほとんど同じクラスだった友人が待ち合わせ場所に姿を現した。
二人でホテルのバーで酒を飲む。
僕は酔って余計な事を言いださないようにいつもより酒の量を軽くしていた。
「それで、話したいことってなんだ?」
「これは友達の話なんだけどさ」
とりあえず自分のこととは言わないで内容を説明した。
「━━と言うわけなんだ」
「なるほど」
話を聞いた修吾は目を閉じて何かを考えている。
「それでお前はその子とどうすればいいのか悩んでいるわけか」
「えっ」
僕の事だと隠して話したのに修吾にあっさりと看破られた。
「修吾。僕じゃなくて僕の友達の話だぞ」
どうしてばれたのだろうか。
僕の話し方がいけなかったのだろうか。
「お前にそんな友達いないだろう」
どういう意味だろう。
友達が少ないという意味だろうか。
たしかに自分でも少ないとは思うけど。
「そんなに僕って友達がいなさそうに見えるのか?」
「いや、お前の友達って大体俺も知っているからさ」
そう言われると確かに共通の友人が多い。
だからってそんなに決めつけられても困る。
「君の知らない友達くらいいるさ」
修吾はグラスに残っていた酒を飲み干す。
「確かに俺の知らない奴だって可能性もあるけど」
グラスを空にした修吾が僕の方を見る。
「どう考えたってお前と蛍ちゃんの話だろうが」
「なっ」
驚いた。
どうしてケイの名前が修吾の口から出てくるのだろう。
「でもまあ。そうか。お前もとうとう蛍ちゃんのことを真剣に考えるようになったか」
「はい?」
修吾は何を言っている?
話がまったくわからない。
「どうした。悠馬。お前と蛍ちゃんの話だろう。違った」
「修吾。どうして君が知っているんだ?」
誰も知らないはずなのに。
「俺だけじゃなくてみんな知ってるぞ」
「ええー」
衝撃の事実だった。
衝撃的すぎて静かなバーで叫び声を上げてしまった。
「お客さん。困りますよ」
「すいません」
固まっている僕をよそに修吾がマスターに謝る。
そして固まったままの僕に修吾は理由を話し始めた。
大学の時の僕の恋人に、ケイが挨拶に行ったそうだ。
「いつの間にそんなことが?」
「お前らが付き合い始めてすぐだったな。さっきも言ったがサークルのみんなは全員知っていたぞ」
まったく知らなかった。
衝撃過ぎる事実が次々と明らかになっていく。
「なんで僕に黙っていたんだ?」
なんで誰も言ってくれなかったのかという疑問が浮かんだ。
「なんかなあ。あの日のことは内緒でということで暗黙の了解ができたんだ」
色々と文句を言いたいがなんとなくその日の様子が想像できた。
「ずっと妹みたいに想ってきたのに」
「そう思っているのはお前だけだよ。いいじゃないか。俺なんか妹に「家族ではなく赤の他人です」とまで言われたんだぞ」
修吾が凄く悲しい目をしている。
状況はわからないがよっぽど辛かったであろうことが伝わってきた。
「まあ、俺の事よりお前のことだな」
修吾が真面目な表情になる。
「結論としてはだな」
「うん」
「蛍ちゃんが高校卒業したらそのまま結婚で良いじゃないか」
「修吾。ふざ━━」
修吾への「ふざけないで真面目に答えてくれ」との言葉を言おうとして声が止まった。
修吾はふざけた様子はなく真面目な表情だからだ。
「そうか」
僕は気付いた。
自分が失敗したことに。
僕は人選を間違えたのだ。
よく考えたら修吾は義理の妹にプロポーズされてそのまま結婚した男だった。
こんな問題、修吾にしたところで結婚するとの解決策しか出してくれない。
「悠馬」
修吾が真剣な顔のまま僕の目を見る。
「考えてみろよ。もしも蛍ちゃんがお前以外の男と結婚することになったらお前はどうする?」
突然の修吾の問い。
ケイが別の男と結婚。
考えたことは無かった。
「さては考えたことが無いな?」
「そうだね」
話はそれているがその通りだった。
結婚だけじゃない。
ケイが僕以外の男と一緒にいる姿が想像できなかった。
「俺は一応な。美月が誰かと付き合った時の事を想定してあったぞ」
美月とは修吾と結婚した義理の妹の名前だ。
「どんな風に」
修吾がどのように考えたのか気になる。
「相手の男はどんないい奴でも殴ってやろうと思っていた」
修吾は本気の表情でそう告げた。
やるときはやる男だ。
本当に殴るだろう。
「そこを踏まえたうえで、お前は蛍ちゃんをどう思っているんだ?」
「……それは」
僕は修吾の問いに答えられなかった。
「これを機に考え直してみるんだな」
修吾はそう言うと、自分の分の金を置いて僕を残して帰って行った。
*
その日の帰り道。
『ユウ君』
初めて僕をそう呼んだケイの姿が脳裏に浮かんだ。
『ユウ君がいてくれるから寂しくないよ』
『これでユウ君とお揃いだね』
『ユウ君が見ていてくれれば頑張れるから』
『辛いことがあっても私が傍にいるからね』
小さい頃から少しずつ成長していくケイの姿が次々と思い浮かぶ。
『これを機に考え直してみるんだな』
修吾に言われたその言葉がいつまでも頭の中に響いていた。
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