第23話 立ち入り禁止区域
「お兄様、私達どこに連れていかれるんでしょうか?」
「さぁ、それは僕もわからないよ」
燕尾服の人に連れてかれて行動を歩くこと数分。僕達は1年生が座る所とは別の場所へと向かっている。
「この辺りは一般生徒が立ち入りを禁止されている所だね」
「そんな所に入って、大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫だよ。心配しないでも、別に取って食われるようなことはないさ」
「望は僕達がどこに行くか知ってるの?」
「知るわけないだろう。まぁ、行ってみればわかるさ」
「望君は暢気ですね」
「肝が据わっているともいえるけど」
こういう神経が図太い所は僕も見習いたいところである。
初めての場所でうろたえる僕と莉音とは違って、望だけは臆せずに堂々と歩いていた。
「それよりも莉音ちゃんは海の事を君付けで呼ばなくてもいいのか?」
「ここには学生がいないので、別にいいんです」
「学生がいると何か問題があるの?」
「お兄様なんて知りません!!」
「何で怒るの!?」
「海はもうちょっと女性の扱いを覚えた方がいいな」
「望まで!?」
何故かわからないけど、望にまであきれられてしまった。こう見えて莉音の扱い方は心得ているつもりだけど、やっぱり難しいな。
「それではこちらの席にお座り下さい」
「はい」
僕達が案内されたのは舞台にもっとも近い1階の席。
舞台との距離も近く、案内された席の中ではもっともいい席のように思える
「凄いです!! ここなら舞台の人達の顔もよく見えますよ!!」
「確かにそうだけど。望、この席って‥‥‥」
「間違いなく関係者席だろうな。しかもこの席はVIPが座る席だぞ」
「VIP!? 何で僕達はそんな席に座らせてもらえるの!?」
「さぁな。それだけ学徒内で、月城は重宝されているって事だろう」
「月城さんって、何者なんだろう」
「この学校の学徒に所属している俺達のクラスメイトだろう。それ以上でもそれ以下でもない」
「それはわかるけど‥‥‥」
「変に詮索しても仕方がないだろう。今は折角こんないい席に座れるんだから、大人しく舞台をみようぜ」
「うん」
望にそう言われたら、僕も従うしかない。最初は望の言っていることが正しいと思っていたけど、座って待っていると状況が一変して来た。
「望、周りはスーツやドレス姿の大人しかいないんだけど」
「そりゃそうだろう。ここは関係者席なんだ。むしろ学生の俺達がいる方がおかしい」
「望はよく堂々としてられるね」
「別に俺達は不正して入ったわけじゃないんだから、問題ないだろう」
「確かにそうだけど‥‥‥」
「莉音ちゃんを見て見ろよ。もうこの雰囲気に慣れてるぞ」
「嘘!? 莉音が!?」
隣に座る莉音を見ると、目をキラキラさせながら舞台を見ている。
「莉音は舞台が気になって周りが見えてないだけじゃないかな?」
「そうとも言えるけど、莉音ちゃんだって純粋にこの行事を楽しもうとしているのに、周りを見てオドオドしているのは海だけだぞ」
「僕もそれはわかってるけど‥‥‥」
「なら海も純粋に楽しめばいいんだよ。そこは莉音ちゃんを見習って」
「わかった」
確かに望のいう事は一理ある。たくさんの大人に囲まれているけど、僕達は正式な手続きをしてここにいるのだから悪いこと等していない。
むしろ莉音みたいに素直に楽しんだらいい。せっかく月城さんがチケットをくれたんだ。困った顔をしていたら、月城さんに怒られてしまう。
「すいません。何かお飲み物はいりますか?」
「飲み物までいただけるんですか!」
「はい。ワンドリンクまでなら無料で提供しますよ」
「そうらしいですよ、お兄様!! 何を頼みましょうか?」
「それなら俺はコーラでも頼もうかな」
「望君には聞いてないんですけど」
「2人共、喧嘩しない。僕はウーロン茶でお願いします」
「私はオレンジジュースで」
「はい。わかりました。すぐお持ちしますので、少々お待ちください」
それだけいうと燕尾服を着た人は飲み物を取りにどこかへと行く。
そしてやっと一息つくことができた。
「あれ? そこにいるのは望君じゃないか?」
「っつ!?」
「確か前に会ったのは、1年前の会食の席だったね。元気にしてたかい?」
僕達の前に現れたのは長身の男性。
口元に髭を蓄えたがっしりとした男性が、僕達の事を見下ろしている。
「望、この人は知り合いなの?」
「そういえば自己紹介をしてなかったな。私は本田正一郎という」
「本田さん‥‥‥ですか?」
「そうだぞ、海。この人は東京に拠点を置く軍の総司令官だ」
「総司令官!?」
「はっはっは。所詮関東近郊をを任されているだけだから、そんなに恐縮しないでくれ」
「関東を任されているだけで十分凄いと思うんですが?」
改めて望の人望の凄さに驚いてしまう。
学園長の息子だから当たり前だけど、改めて望の人脈の凄さに驚いてしまった。
「そっちにいる2人は望君の友達かな」
「はい。望の友達で如月海っていいます」
「私は如月莉音です」
「如月‥‥‥海‥‥‥」
「あれ? 僕の名前を知ってるんですか?」
「いや!? 初めて聞いた名前だよ。望君の友達ならまたどこかで会うかもしれない。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
一礼すると本田さんはどこかへ行ってしまう。
きっと僕達と別の席だから、移動したのだろう。
「本田さん、優しそうな人だったね」
「そうですね。紳士的な人でした」
「本当にそうかな?」
「望?」
「何でもない。それよりもそろそろ始まるから、舞台を見よう」
僕達に前を向くように言う望は一向に浮かない顔をしていた。
僕はその理由を聞かないまま、照明が暗転し新入生歓迎会が始まるのだった。
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