第22話 学徒の裏側
月城さんと過ごしたお昼休みから数日後、ついに新入生歓迎会の日を迎えた。
放課後僕と望は莉音との集合場所となっている講堂の前にいた。
「莉音ちゃん遅いな」
「待ち合わせの時間過ぎてるのに、莉音の奴何してるんだろう」
「こういう時なら俺達が来る前に待ち構えていてもおかしくないのに。珍しいな」
「きっと帰りのホームルームが遅れているだけだよ」
「それだけならいいけどな」
「望?」
「何でもない。とにかく今俺達に出来ることがないんだから、大人しく待とう」
「そうだね」
中に入るためのチケットも莉音が持っているので、僕達に出来ることはない。
だから望の言う通りここで待つしかない。僕達がこうしている間にも、講堂の入口に並ぶ列が長くなっていく。
「それにしても凄い人だかりだね」
「そりゃそうだろう。あの大人気の学徒様達が生で見れるんだ。人も集まるさ」
僕達の周りには今か今かと待ちわびている学生達が中に入るのを待っている。
特に先頭の人達の気合が違う。列の最前線で座り込み、入場が始まるのを待っている。
「学徒って何でこんなに人気なんだろう」
「学徒に入れば将来安泰だからな。それは人気もでるさ」
「どういう事?」
「海は本当に学徒の事を何も知らないんだな」
「うん。僕には一生縁のないものだと思ってたから。昨日月城さんが説明してくれるまで、何をしていたのかもわからなかった」
「よくそれで去年の新入生歓迎会を見に行ったな」
「元々学徒は学内の部活動の一環とかにしか思ってなかったんだよ」
先日月城さんに説明を受けるまで、学徒が外部とそこまで接点があるものだと思ってなかった。
だから正直びっくりした。そんなことまでして、バイト代まででているしっかりとしたお仕事だったなんて。
「しょうがないな。学徒の事が何もわかってない海の為に、俺からも学徒の事について教えてやるよ」
「大丈夫だよ。この前月城さんに聞いたから」
「海は本当に学徒の役割があれだけだと思ってるのか?」
「どういう事?」
「月城が言っていたのはあくまで学徒の表の部分だ。所属していた時のメリットは一切話してない」
「学徒に入ることで、何か大きなメリットがあるの?」
「あるよ」
「どんなメリットがあるの?」
「まず学徒ってのはな、日本の中枢を担う候補生達の集まりなんだよ」
「つまりエリートってこと?」
「そうだ。過去学徒OBには官僚や政治家、この学校の学園長も学徒出身なんだ」
「学徒に入ると、将来が明るいんだね」
「あぁ。そこに入るだけで、将来が約束されているようなものなんだよ。これぐらいは基礎知識だから覚えておけよ」
得意げに話す望だが、その話を聞いて僕はある疑問が浮かんだ。
「そういう事なら、望は学徒には入らないの?」
「あんなくそみたいな所、絶対に入るかよ!!」
「望?」
「何でもない。これは俺の問題だから、海には関係ない話だ」
それだけしか望は言わない。
僕が考えている以上に、望と学徒達の間には何かがあるようである。
「(この事は触れないようにしよう)」
「あっ!? おっ‥‥‥海君!」
「莉音」
「お待たせしてすいません。ホームルームが長引いてしまって」
「僕達も今来た所だから気にしないで」
「はい!」
嬉しそうに僕の腕を掴む莉音。それとは正反対に僕と莉音の周りはもの凄くざわついている。
まるで僕と莉音が一緒にいることが間違っているみたいに‥‥‥確かに美人で可愛い莉音と冴えない僕では容姿的には釣り合ってはいない。周りの反応が正しい。
『おい、あれが例の如月さんの‥‥‥』
『らしいな。それにしてもやけに冴えない顔をしているな』
『冴えない顔というよりは、どことなく可愛くない?』
『確かに。あれはあれで別の需要が‥‥‥』
背中からおぞましい程の寒気がした気がするけど、僕はそれを無視する事にした。
感じた事がない稀有な視線に、思わず体が身震いしてしまう。
「海、どうしたんだよ。身震いなんかして」
「いや、何でもないよ。気にしないで、望」
僕の貞操が危険な気がしたけど、気のせいだろう。
いや、気のせいであってほしい。いまだに背中がうすら寒いから。
「海君! 受付が始まったみたいですよ」
「そしたら僕達も並ぼうか」
「はい!」
莉音と望を連れて、僕達も列に並ぶ。
長い列の一番後ろに並んだので、受付までまだ時間がかかる。
「受付をするまで長いですね」
「これだけ人がいるんだから、しょうがないよ」
1学年の殆どの生徒がここにいるんだ。受付まで時間がかかるのはしょうがない。
むしろ僕が思っている以上に受付のスピードが早い。受付の人はかなり優秀な人のように思える。
「これじゃあいい席は他の人に取られちゃいます」
「しょうがないでしょ。僕達が来るのが遅かったんだから」
「別に後ろの席でゆっくり見ればいいだろう」
「それだと月城先輩のお顔が見えません」
「それはあきらめるしかないよ」
「新入生歓迎会の席は早いもの順だからな。前で見たければ、それだけ早く講堂の前に並ぶしかないぞ」
「ならしょうがないですね」
いつもはわがままな莉音もこればかりは仕方がないとうなだれる。
去年僕も前の方で見たかったけど、列が後ろの方になったためあんまりよく見えなかった覚えがある。
「そろそろ私達の番ですね」
「うん」
「すいません。チケットを見せてもらえますか?」
「はい。これでお願いします」
自分達の順番まで周ってくると、チケットを係の人に見せた。
3枚のチケットを受け取った係の人の顔色が、何故だかどんどん悪くなっていく。
「こっ、これは!?」
「どうしたんですか?」
「すいません!? 貴方達はこちらの入口からは入れません」
「ちょっと待てよ。入れないってどういうことだよ!!」
「今係の者が席へとご案内致しますので、少々お待ちください」
チケットの回収をした人が慌てて裏に行く。
そのせいで順調に進んでいた列が一旦止まってしまった。
「どうしたんでしょうか?」
「僕達何かやらかしたのかな?」
「そんなわけないだろう。全てはこのチケットを渡した奴が悪い」
「悪いって、月城さんが悪いの?」
「まぁな。だってこのチケットは‥‥‥」
「お待たせしました!! こちらの案内人について行って下さい」
「わかりました」
「それではご案内しますので、私に着いてきてください」
「はい」
連れてきてくれた男性の後ろに僕達はついて行く。
先程のスーツを着ていた男性とは違い、燕尾服を来たしっかりした執事に講堂内を案内されるのだった。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでご覧いただきありがとうございます
よろしければフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます