第24話 新入生歓迎会 前編

 新入生歓迎会が始まりしばらく時間が経った。

 舞台の方では学徒の人達が歌やダンスや劇等の催し物を行っていた。



「学徒って凄いですね。こんな素敵なダンスや歌が出来るなんて憧れます」


「うん。学徒の人達って華やかだよね」



 去年もこの舞台を見ていたけど、特別な衣装を着てステージに立つ人達はキラキラしている。

 周りに笑顔を振りまいているその姿は、さながら芸能人のようにも見えた。



「私も将来は学徒に入りたいです」


「それだけはやめた方がいい。あんな所に入るなんて、自殺行為もいい所だ」


「そういえば望はあまり学徒の事よく思ってなかったね」


「あぁ、あんな団体潰れてしまえばいいと思ってる」



 望の学徒嫌いは今に始まったことじゃない。

 この前月城さんと話していた時から一貫して、学徒のことを嫌っている。



「何で望君はそこまで学徒の事を嫌っているんですか?」


「そうだよ。学徒に入る実力があるのに入らないし、何がそんなに嫌なの?」


「全てだよ」


「えっ!?」


「俺は学徒の全てが嫌いなんだ」


「どういう事? 全てが嫌いって」


「周りを見て見ろよ。ここに座っている人達を」


「周り?」


「ここにいる人達がどうしたんですか?」


「まだわからないのか? 俺達がいる席の周りにいるのは国家の中枢にいるお偉いさん達だ。そのお偉いさん達が学徒の事を見に来ている。この意味が海にはわかるか?」


「う~~ん」


「私わかりました!」


「莉音?」


「たぶん将来を有望視されている学生のチェックをしてるってことですよね?」


「そうだ。この新入生歓迎会は新入生へのお披露目の他に、国の上の人達へのお披露目会の意味も込められてるんだ」


「国の人達へのお披露目って、まるで就職活動だね」


「大学に行く前に就職活動をすることなんてあるんでしょうか?」


「あるよ。こういう舞台で目に留まった優秀な学生は、将来国の様々な省庁に引き抜かれる。つまりここは国のお偉いさん達が大学に入る前の学生を青田買いする為の場所でもあるんだよ」


「それは考えすぎじゃないかな?」


「全然考えすぎじゃない。もし純粋に新入生歓迎会をするなら、この関係者席なんていらないだろ?」


「確かにそうだけど‥‥‥」


「表では華やかに見えるけど、裏では学生の取り合いが始まってるんだよ。俺達の知らない所で」



 望が話すことは生々しい。僕達が知らない大人の話をする。

 これもきっと幼い時から望は色々な社交界に出入りしていたからだろう。だからこういうことに詳しいんだ。



「でも望さんの話は大人達の話であって、学徒の人達には関係ない話じゃないですか?」


「確かに引き抜き云々はあまり関係はないな。だけどあそこは将来国の中枢を担うエリートが集まる場所だ。「もちろんそこには面倒な上下関係がある」


「でもそれはどこにでもあるものじゃない?」


「面倒なって言っただろ? 学徒では先輩のいう事は絶対聞くというのが鉄の掟だ。例えそれがどんな理不尽な事があっても、先輩のいう事は聞かないと行けないんだ」


「つまりどういう事?」


「例えば先輩から面倒な関係を迫られても断りずらいってことだ。もし断るとしたら、最悪学徒を抜けることになるかもしれない」


「そこまでしないといけないの!?」


「先輩のいう事は絶対って言ってるだろ? 中にはその事を悪用して、後輩と関係を迫って付き合おうとする悪い奴もいるんだよ」


「そんな人までいるんですか!?」


「中にはな。だから俺は学徒が嫌なんだよ。あそこは体育会系以上に上下の関係が強いから、どんな無茶な命令をする奴もいる」


「望が学徒に入ることを嫌っている理由がよくわかったよ」



 この先輩後輩の上下関係が嫌だから望は学徒に入らなかったのか。

 今の説明でその理由がよくわかった。



「待ってください。先程の話を聞いた限りですと、月城先輩もその先輩達に従わされているって事ですか?」


「月城の場合は少し事情が違うな。あいつは去年新設された月組のリーダーだから、そういったしがらみはないはずだ」


「月組ってこの前望が話していた組分けの話だよね?」


「そうだよ。この前月城は話していなかったけど、学徒は組ごとに特色があるんだ」


「特色? そんなのがあるんだ」


「この学校に1年もいて、そんなことも知らなかったのかよ」


「しょうがないじゃん。学徒なんて僕には縁のないものだったんだか



 スカウトの話すら来なかった僕になんて、縁のない団体だ。

 その団体の内情なんて知るわけないだろう。



「学徒には4つの組があることはこの前説明したよな?」


「うん。月組、華組、雪組、星組の4つあることは聞いたよ」


「新設された月組、最大派閥の華組、実力の雪組、謎に包まれた星組の4つがある」


「その組み分けには何か理由があるの?」


「理由はない。その人が学徒に志願してテストに合格するか、学徒から直接スカウトされれば晴れて学徒になれるんだ」


「なるほど。テストで合格するかスカウトが来ないと、学徒に入れないんだね」


「そうだ。スカウトの場合は去年までの魔法の成績を鑑みて、それぞれの組のリーダーが直接来るんだ。魔法の成績が悪い海には来るわけがないだろう」


「確かにね」


「望さん、1つ質問があります」


「何だ?」


「去年月城先輩が新たに新設された月組に入ったって言いましたよね? 何でその組は新しく作られたんですか?」


「俺にも詳しくはわからないけど、噂だととある軍の関係者が月城の事を推薦したらしい」


「推薦? 他の組に入るんじゃなくて?」


「そうだ。噂だとさっき言った慣習を嫌った月城が軍のお偉いさんを後ろ盾にして、無理やり創設したと聞く」


「そんな事情があったんですね」


「だから月組に関しては、学徒の中でもそこまで発言権がないらしい」


「月城さんも大変なんだ」



 いつもはクールなように見えるけど、その裏では大変な思いをしているみたいだ。

 僕達とは全然違う世界に住んでいるようである。



「あっ!? お兄様、見てください!! 月城先輩が出てきました!」


「本当だ」



 舞台に立った月城さんは白い布の手袋をはめ、スキニーのパンツを履いている。

 赤いキラキラとしたジャケットを着ている姿はまるで王子様のように見えた。



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