第20話 予定外の来訪者
「着きましたね、海君」
「うん。今日はこの辺りで食べようか」
「賛成だ」
僕達が来たのは校舎裏の中庭。この場所は木々が生い茂っており、暑い日等は日影が出来て最高の場所でもある。
「さすがにここまでお預けされてたら、腹が減って死んじまうよ」
「望君は朝ごはんを食べてこないんですか?」
「ちゃんと食べてるよ」
「望は代謝がいいから、すぐお腹が減るんだよ」
「調子のいい体ですね」
「莉音ちゃん、今何か言った?」
「いいえ。それより早く食べましょう。お昼休みが終わってしまいますよ」
近くのベンチに座り、弁当箱を開けた。
弁当箱の中には今日も色とりどりのおかずが並んでいる。
「相変わらず海の弁当おいしそうだな。1つもらい!」
「あっ!? それ僕の大好きな唐揚げ!?」
「唐揚げなら私のを差し上げます。はい、あ~~ん」
莉音は自分の弁当箱から唐揚げを取ると、僕の開いている口に無理やり唐揚げを詰め込んでしまう。
「美味しいですか?」
「むががががが!?」
突然入れられたからか、咀嚼することもできず息が出来なくなってしまう。
味は抜群に美味しいけど、大きな唐揚げを必死に噛む為味わっている余裕がなかった。
「莉音ちゃん!! 海の奴喉に唐揚げを詰まらせてるぞ」
「大変です!! お兄様、水!! 水です!! これを飲んで下さい!!」
莉音から受け取った飲み物を受け取り、それを一気に飲み干す。
おかげで唐揚げを全て飲み込むことが出来て一息つけた。
「大丈夫ですか、海君」
「うん大丈夫」
あやうく唐揚げという海におぼれかけたけど。
心配そうに僕の事を見つめる莉音に笑いかけた。
「それよりこの唐揚げ美味しいね。さすが薫子さんが作った唐揚げだ」
「その唐揚げですけど、私も作るのを手伝ったんですよ!!」
「ごめんごめん。だからか、こんなに美味しいのは」
この味は僕好みの味付けである。莉音が味付けをしたのなら納得だ。
「もしかしてこの玉子焼きも莉音が作ったものなの?」
「はい。私の自信作ですから、ぜひ食べてください」
「そしたらこれもいただきます」
玉子焼きを箸でつまみ、口の中へと入れる。
この玉子焼きは甘味がある玉子焼きである為、僕の好みの玉子焼きであった。
「どうですか?」
「うん。すごく美味しいよ」
「よかったです。折角だから私のも食べますか?」
「ありがとう。そしたら僕の唐揚げと交換しようか」
「はい! ありがとうございます」
莉音とお弁当を交換しながら、食べ進めていく。
ただの兄妹のふれあいだったのだが、何故か望が僕達を見る視線は冷たかった。
「どうしたの? 望? そんな顔をして」
「何でもないぞ。ただこうしてみると、2人が兄妹なんてわからないと思っただけだ」
「そんなことないよ。どう見たって兄妹の会話じゃないかな?」
「そうか? 俺にはとてもそうは見えないけど‥‥‥」
一体望の瞳に僕と莉音はどう映っているのだろう。
望とは対照的に莉音は僕の隣でニコニコと笑っている。
「莉音も、僕達3人しかいないんだからそろそろいつもの呼び方に戻してもいいんじゃないかな?」
「何の話でしょうか?
「はぁ。海よりも莉音ちゃんの方がプロだよな」
「プロ? どういう事?」
「あそこを見て見ろよ」
「あそこ? 僕にはただの茂みにしか見えないけど‥‥‥あっ!?」
茂みの中から僕達の姿をうかがう人がいる。
それは僕のクラスで何度も見た顔だった。
「月城さん‥‥‥こんな所までついて来るなんて」
「よっぽど海の事がお気に召したみたいだな」
望は笑っているけど、正直笑い事ではない。
教室内だけでは懲りず、昼休みまで僕の事を監視しているなんて月城さんの執念には脱帽である。
「それよりも望、何で月城さんはアンパンと牛乳を持ってるの?」
「それは俺にもわからない」
いつもは可愛い弁当箱を持って来たはずなのに。何で今日に限ってアンパンと牛乳なんだろう。
見た目とのギャップに思わず首をかしげてしまう。
「海君、一体月城先輩に何をしたんですか?」
「何もしてないよ。何もしてないから、付きまとわれてるのかも」
「どういうことですか? そこの所を詳しく教えてください!!」
「莉音!? 近い!! 近すぎるから身を乗り出さないで!?」
僕の顔を覗き込む莉音。その端正な顔が鼻につくぐらいの距離で僕の事を見る。
「そんなことはどうでもいいんです!! 海君、月城先輩と何があったか白状してください!!」
「そうは言われても‥‥‥」
言えない。自分の右目の事を月城さんが怪しんでるなんて、莉音には言えない。
事前に伝えておけばよかったけど、そんな時間はなかった。この距離だと僕達の声は月城さんに届いているので、迂闊に話すことが出来ない。
「それなら本人に直接聞くだけです」
「莉音、どういう事?」
「折角ですから月城先輩もこちらにお呼びします」
「えっ!? それはやめておいた方が‥‥‥」
「別に月城先輩がいても、私は構わないので」
「莉音ちゃんにしては、思い切った行動をするな」
「はい。そっちの方が色々と
怖い。笑っているだけなのに何故か今の莉音は怖かった。
「そうと決まれば、月城先輩をお迎えに行ってきますね」
「まっ、待って莉音!!」
僕が止める間もなく、莉音が茂みの方に駆け寄っていく。
近づいてくる莉音に気づいたのか、茂みにいる月城さんが慌てているのが見えた。
「やっぱり! そこにいたのは月城先輩だったんですね!」
「あぁぁあの!? 私は‥‥‥」
「別に怒っていませんよ。私は月城先輩をお迎えに上がったんです」
「お迎え?」
「はい」
茂みの奥で莉音と月城さんが話しているけど、僕達にその声は届かない。
ボソボソと話しているからか、詳しい内容までは聞き取れなかった。
「海」
「何?」
「今のタイミングで月城がテンパっているだろうから聞くけど、月城はお前の目の事を探ってるんだよな?」
「ご名答。望の予測は当たってるよ」
「やっぱりな」
「望は月城さんが僕の目の事を探ってるのは知っていたんだよね」
「まぁな」
だから朝教室に入る前にあんな事を言ったのだろう。
そうでなければあんな忠告をしなかったはずだ。
「月城と一緒に魔獣を討伐した事は親父から聞いていたからな。何かあったら海のフォローをしてくれって頼まれてた」
「だったらもっと早く助けてよ」
「そうは言われてもな。月城の性格上すぐに諦めると思っていたし、まさかこんな海に執着するとは思わなかったんだ」
気まずそうな望の様子を見るに、月城さんの行動はよっぽど意外な行動だったのだろう。それは僕も同じ気持ちだ。
「もしかしたら月城って‥‥‥」
「望、何か思い当たることがあったの?」
「いや、やめておこう。変な邪推はしない方がいい」
「おっ‥‥‥海く~~ん、月城先輩を連れてきましたよ」
「ちょっ、ちょっと!? 莉音ちゃん」
「月城先輩も恥ずかしがっていないで、一緒に食べましょう。先輩はここに座って下さいね」
「わっ、わかったわ」
そう言って莉音は月城さんを連れてきて、僕の隣に座る。
遠慮がちに莉音の隣に座る月城さんを迎え、混沌の中昼食は進められるのだった。
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