第19話 馬が合わない2人
あれから時間は過ぎ昼休みになり、僕は中等部の廊下を歩いていた。
理由はただ1つ、一緒に昼食を食べる莉音の事を迎えに行くためである。
「はぁ、疲れた」
「珍しいな。いつもは俺よりも元気なのに」
「そう思ってるなら助けてよ!! 望は僕がこんな風になっている原因を知ってるでしょ!!」
「まぁな」
望も今日会ったことを思い出しているようだ。
今日の昼休み前、行間休み中にあったことを。
「まさか月城の奴があんなにしつこく海に付きまとうなんてな」
「本当だよ。休み時間中ずっと月城さんがいるんだよ。息が詰まるよ」
「あんな美人とずっと一緒に過ごせるなんて役得だろ。周りもきっとうらやましがってたと思うぞ」
「望、本当にそう思ってる?」
「思っていたらこんな皮肉を言わないだろ?」
「だよね」
「絶対にあれは海の秘密を探ろうとしていたとしか思えないからな」
「だよね。月城さんと話していて常々思うけど、月城さんはずっと僕が墓穴を掘るのを待っているように見えたから困っちゃった」
「待っているように見えたじゃなくて、待っていたんじゃないか?」
「そうとも言える」
ともあれ月城さんがそんな調子だから、僕は休み時間ずっと緊張しっぱなしだった。
折角の休み時間なのに気が休まらないし、授業中の方が気が楽になることがあるなんて思わなかった。
「おまけに昼休みもくっついてこようとするからから参っちゃうよ」
「今日だけは莉音ちゃんに感謝だな」
「うん。まさか莉音に感謝する日が来るとは思わなかったけど」
いつもは教室まで来てうっとおしいと思う莉音だけど、今日だけは莉音に感謝しなくてはいけない。
「ほら、噂をすればなんとやらだ」
「莉音」
教室から顔を出し、首を右左に振り廊下をじっと見つめている莉音。
いまかいまかとそわそわしながら僕達の姿を探す莉音は、傍から見れば不審者に見えなくもない。
「ほら海。お姫様がお待ちだぞ。言ってやれよ」
「わかってるよ。莉音!!」
「あっ!? おっ‥‥‥海君!」
弁当箱袋をぶら下げた莉音が僕の方へと駆け寄ってくる。
僕と会えたことが嬉しいようで、駆け足で僕達の方へと来た。
「ごめん、待たせちゃって」
「本当ですよ。一体今まで何をしていたんですか?」
「ちょっと教室の方でトラブルがあってな。海の奴に悪気はなかったんだ。許してやってくれ」
「もちろん海君の事は許しますけど‥‥‥何でいつも望君までついて来るんですか?」
「別にいいだろう。俺だって海の友達なんだから」
「私は望さんとお昼ご飯を食べる約束をしてないんですけど?」
「俺だって、莉音ちゃんと昼飯を食べる約束はしてないよ」
「それならお引き取り願えませんか?」
「そう言うわけにはいかないよ。俺は海と昼飯を食べる約束をしているんだから」
そう言ったまま莉音と望は睨みあう。いつもの事だけど、これはこれで面倒くさい。
「2人共喧嘩はそこまでにしてよ!! それよりも早くご飯を食べよう。昼休みが終わっちゃうから!!」
「よかったな、莉音ちゃん。今回は海の顔に免じて許してやろう」
「それはこっちのセリフですよ、望君」
「言うようになったね、莉音ちゃん」
「望君には負けますよ」
「「ははははははは」」
怖い。莉音と望は笑っているはずなのに、全然楽しくない。
2人の表情を見ると全く目が笑ってない。
なんでこの2人はこんなに仲が悪いのだろう。昔からの顔見知りなのに。
「これが馬が合わないって奴か」
「海、何か言ったか?」
「いや、何も言ってないよ!? それよりも早く行こう」
「わかった」
「ふふ、楽しみです」
それから僕達はお昼ご飯を食べる為、以前莉音が連れて行ってくれた中庭を目指す。
だがこの時の僕は油断していた。そのせいで僕達の後ろをついて来る不審な人に気づくことはなかった。
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