第18話 追及する月城
その後僕は泣き止んだ莉音と共に通っている学校へと向かう。
言いたいことを全て言い切ったからか、莉音は先程とは違いスッキリとした表情を浮かべていた。
「それではお兄様、またお昼に会いましょう」
「うん。また後でね」
「はい! お昼休みを楽しみにしています!」
元気いっぱい中等部の校舎に向かう莉音。その姿を静かに見送り僕も校舎内に入る。
「はぁ、まさか莉音があんなことを思ってるなんてな」
「本当だよ。可愛い女の子を泣かせて、海は罪作りな男だな」
「わっ!? 望!!」
「今更気づいたのかよ」
僕の方を見て呆れた様子を見せる望。
さっき通学路を歩いている時は姿が見えなかったのに、いつの間に僕の後ろに立っていたのだろう。
「いっ、一体いつからいたの!?」
「莉音ちゃんがプリプリと怒っていたところからかな」
「それって最初からいたって事じゃん!!」
つまり望は僕と莉音がひとしきり喧嘩をしいている最中からずっと僕達の後をつけていたらしい。
今日は望の事を見かけないなって思っていたけど、そういう理由だったのか。
「隠れて見てるなんて趣味が悪いな」
「バカ。あんな雰囲気の中で声を掛けられるわけないだろう」
「でも‥‥‥」
「それに莉音ちゃん、海の右目の事について心配していたんだろう? さすがにその事について、外野の俺が口を挟めないわ」
そう言われると何も言い返すことができない。
望は僕の目の事について、僕自身の問題だからあまり口を挟もうとはしなかった。
そのスタンスは今後も変わらないのだろう。
「それよりもこの前は大変だったな。魔獣と鉢合わせるなんて」
「僕もびっくりしたよ。まさか自分達の街に魔獣が出てくるなんて思わなかったから」
しかもあんな住宅街の中を平然と歩いていたんだ。
いつどこで出会うかわからないというけど、まさか街中で会うとは思わなかった。
「しかもその魔獣、いくら魔法や武器で攻撃しても死なないんだろ?」
「うん」
「妙な話だな。親父から聞いた今までの魔獣の特性とは明らかに異なるぞ」
「僕もそう思った。今まで何かしら武器や魔法で攻撃すれば魔獣は倒せたのに、全く効いていないなんて」
「もしかすると魔獣の中でも新種が現れたのかもしれないな」
「新種!? 魔獣の特性は全て明らかになったんじゃ‥‥‥」
「だから新種って言ったんだろう? もしかすると魔獣の中でも希少性の高い特別変異種かもしれないって言っているんだ」
「特別変異種ね‥‥‥」
「この前親父も同じことを言ってたぞ。今本部の科学捜査担当が死んだ魔獣の鑑定をしているらしい」
「それって本当なの?」
「あぁ、確実だ。近い内にこの近辺は厳重警備区域に指定されるらしい」
「それじゃあ今までよりパトロールの人数が増えるんだ。これで安心だね」
「まぁな」
望の言葉はどこか歯切れが悪い。街に出てくるパトロールの人数が増えるという事に何か思うことがあるのだろうか。
「それよりも海、これから覚悟した方がいいぞ」
「何を覚悟するの?」
「まぁ、それは教室に入ってからのお楽しみだ」
「お楽しみ? もったいぶってないで教えてよ」
「それは入ればわかるはずだ。ほら、早くドアを開けろ」
「わかったよ」
渋々教室のドアを開けた。ドアを開けた瞬間、みんなが僕の方を振り向いた。
そして何もなかったかのようにまたおしゃべりを始める。
「何か気味が悪いな」
「そうか? 久々にクラスに出てきたんだから、至極真っ当な反応のようにも思えるけど?」
「でも、みんな僕の事を一瞬見て目を背けるなんて普通しないでしょ?」
「さて、何でみんながそんなことをするんだろうな」
「その言い草、望は何か知ってるんでしょ?」
「さぁ、どうだろうな」
「ぐっ」
駄目だ。これ以上望に何を聞いても望は僕に何も教えてくれないだろう。
だったら大人しく席に着こうと思い、自分の席に着きほっと一息ついた。
「きっ、如月君!!」
「えっ!? 月城さん!? どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!! 怪我は大丈夫なの?」
「怪我?」
「そうよ。あの時の怪我はもう治ったの?」
「あぁ、その怪我なら大丈夫だよ。少し筋肉痛があるぐらいかな」
「よかったわ。何ともなくて」
ほっとしている月城さんを見てピンときた。望が言いたかったのはこの事だったのか。
「月城さんの方は大丈夫だった? 怪我はないの?」
「私の方は何もないわよ。あれから本部に呼び出されて、再度事情聴取されたぐらいだから」
「また呼び出されたの?」
「そうよ。あの時の状況を再度聞きたいってことでまた呼び出されたの」
「月城さんも大変だね」
「まぁ、私も学徒に入ってるからしょうがないわ」
月城さんは月城さんで元気に話している。どうやらあの時の影響は何もないみたいだ。
「ところで再度確認するけど、本当に怪我は治ったのよね?」
「うん。だから気にしないで」
望がいいたいことがよくわかった。先程の言葉は月城さんが心配しているから、安心させてほしいというメッセージだったのかもしれない。
それだったら目的は達成できた。月城さんは怪我の事を聞いてほっとしているようだった。
「でも、良かったわ。怪我が完治していてよかった」
「だからそんなに念を押さなくても、大丈夫だよ」
「まだ怪我をしていたら遠慮しようと思っていたけど、これなら大丈夫ね」
「えっ!? どういう意味?」
「如月君!!」
「はっ、はい!!」
「あの夜の事なんだけど、貴方は一体何をしたの? 私でも倒せなかった魔獣をどうやって倒したの?」
「あれは‥‥‥その‥‥‥」
望が話していたことが今ようやく理解できた。望が本当に言いたかった事は月城さんが押しかけてくるから、気をつけろって言っていたんだ。
その証拠に僕の事を見る望はため息をついている。
こうなるならもっと直接的な言葉で教えてくれても良かったじゃないか。
「あれは適当にナイフで切り裂いたら、たまたま魔獣の体が切れただけで‥‥‥」
「それは嘘ね。そんなに簡単に倒せているのなら、私の魔法でも簡単に倒せてたはずよ」
「たまたま魔法が効かなかったったって事は?」
「ないわね。この前事情聴取をされた時、上の人から魔法どころか物理攻撃も効かないんじゃないかって話をされたわ」
「ぐっ!?」
「つまりあの魔獣は本来不死身の存在だったはずなの。なのに貴方はいとも簡単に魔獣を倒せた。それは一体何故?」
ぐっ!? 鋭い。最新情報まで持ってくるなんてずるい。
もしかするとさっき下駄箱で望が話していたのも、こうなる事を予期して僕に情報を伝えていたのかもしれない。
「たまたま‥‥‥たまたまナイフを振っていたら、魔獣の急所を捕えたんじゃないかな?」
「その割にはやけに自信満々にナイフを振っていたけど?」
「ぐっ!!」
「あれはまるであの魔獣のどこにナイフを刺せば絶命することがわかるぐらい的確だった。まるで魔獣の殺し方をわかっていたみたいな、そんな感じに見えた」
まずい、まずいぞ。このままでは僕の秘密がバレてしまう。
今の月城さんに下手な言い訳は通用しない。
たぶん僕がいない間、色々と考えたのだろう。当時の事を思い返して、色々と不審な点を見つけたに違いない。
「それにその目、魔獣を倒す時青く輝いていたけど何でそうなったの?」
「たまたま光の反射でそう見えただけじゃないかな?」
「絶対違うわ!! あの時薄暗い街灯しかなかったし、見間違えるはずがないじゃない!!」
困った。正直これ以上いい訳のしようがない。
どんな言い訳をしても、全部月城さんに見破られてしまう。
「さぁさぁ、答えなさい如月君」
「その‥‥‥」
近い。今僕の顔の前に端正な顔をしている月城さんの顔がアップで写っている。
こうして近くで見ると白魚のような美しい肌だ。両目のサファイアのような赤い瞳は宝石のように輝き、唇は血色が良くプルプルして柔らかそうに見え思わず息を飲み込んでしまう。
「如月君!!」
「はい!!」
違う違う!! 今はそんな事を考えている場合ではない。
月城さんの追及を逃れなくては。このままじゃ僕の秘密が白日の下にさらけ出されてしまう。
「さぁさぁ、いい加減に話しなさい。貴方の秘密を!!」
『キーンコーンカーンコーン』
「月城さん、ホームルームのチャイムだよ!! そろそろ席に着かないと先生が来ちゃうよ!!」
僕のことを訝しげに見ながらも月城さんは下がってくれる。
その事に思わずほっと胸を撫でおろした。
「如月君」
「はい」
「これで終わったと思わないでね」
怖いセリフを言い残し、月城さんが席へと戻っていく。
よく見ればクラス中の人達が僕の事、僕と月城さんのやり取りをこっそり見ていたみたいだ。
「よかったな、色男。また月城と話せるみたいだぞ」
「茶化さないでよ、望」
全く助けてくれない望に恨みつらみの視線を送っていると先生が教室に入ってくる。
その後つつがなくホームルームが始まるのだった。
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