第17話 莉音の心配事
あの魔獣との戦いから2日後、無事病院から退院できた僕は学校への道を歩いている。
望のお父さん達が危惧していた右目に異常はなく体の怪我もなかった為早めに退院でき、こうして無事学校に行くことが出来た。
「あ~~体が痛い」
「お兄様の自業自得です。少しは反省してください」
「莉音。そんなに怒らないでよ」
「私は別に怒ってません!! ものすごく怒ってるんです!!」
「それはどっちも怒ってるってことじゃないかな?」
「全然違います!! 私はものすごく怒ってるんです!! ただ怒ってるんじゃないですよ!! 激おこなんです!!」
「ごめんごめん。莉音の気持ちはよくわかったよ」
頬を膨らませぷりぷりと怒る莉音は怖いというよりは可愛く見えた。
「絶対お兄様はわかっていません」
「いや、わかってるよ」
「それならお兄様、私がどうしてこんなに怒ってるかわかりますか?」
「ええっと‥‥‥」
思えば莉音が怒っていたのは僕が入院した時からだった。月城さんが帰った後、莉音が勢いよく病室に入ってきた時からずっと一貫して怒っていた。
「僕が勝手に魔獣と戦ったこと?」
「それも1つですね」
「まだあるの!?」
「はい。もちろんです。その事以上にもっと怒ってることがあります」
「もっと怒ってることがあるの!?」
てっきり莉音は僕が魔獣と戦ったことを怒ってると思っていたけど、この怒りの原因は別にあるらしい。
プリプリと怒る莉音は僕の目を見てくれない。それはそれで寂しく思った。
「そうですよ。何だと思いますか?」
「後は‥‥‥僕が右目の力使った事かな?」
「そうです!! お兄様がその右目の力を使った事が問題なんです!!」
「それは死線の事だよね?」
「はい!! 望君のお父様、学園長も言っていたじゃないですか!! その目の力はお兄様の体に多大な負担をかけるって!!」
「でも、実際大丈夫だったから問題は‥‥‥」
「大丈夫じゃありません!! 路地裏で倒れて病院に運ばれたじゃないですか!!」
「あれはちょっと疲れて倒れただけで‥‥‥」
「疲れただけじゃありません!! 黒柳先生からお兄様が倒れたって電話がかかってきた時、私がどんな気持ちだったかわかりますか!! ものすごく心配したんですよ」
「莉音‥‥‥」
「魔獣を倒したのは凄いです!! だけどそれでお兄様が死んでしまったら元も子もありません!! お兄様は私のたった1人だけの家族なんですから」
莉音は怒りながらも目からは大粒の涙をこぼしていた。
それはもしかすると10年前の惨劇の際、自分の身代わりに僕の目に魔道具を埋め込まれて後悔しているのかもしれなかった。
「ごめん、莉音。心配かけて」
「お兄様」
「でも、もしこの力で人を救うことが出来ることがあるのならば、僕はこの力を行使するよ。みんなを守る為に」
現にこの力がなければ、あの魔獣を倒すことが出来なかった。
だから僕はピンチになればまたこの力を使う。大切な人達を守る為に。
「それなら私がお兄様を守ります。その力は絶対に使わせません」
「莉音」
「その力はお兄様の体を蝕む悪しき力です。その力を使うような事を私はさせません」
莉音が僕の事を思ってくれるのは嬉しい。だけど僕にはやらなければいけないことがある。
あのスーツ姿の男。自分の事を神と名のった奴を殺すまで、僕は止まることが出来ない。
「ありがとう、莉音」
「お兄様」
「僕の事を心配してくれて」
僕の胸に抱き着いてくる莉音の頭を優しく撫でた。
いつまでも子供のように泣き続ける莉音の事をずっとなだめるのだった。
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