第9話 不穏な兆候

 放課後、帰りのホームルームを終えた僕は家に帰る準備をする。

 机の中にある教科書を鞄の中に詰めると、すぐ席を立った。



「確か調味料が色々と切れていたよな。帰りにスーパーに寄らないと」



 昨日の夜夕食を作っていた時、莉音がそう話していた。

 今日は薫子さんが家に来る日だし、材料はともかく調味料ぐらいはちゃんと揃えておこう。



「海!!」


「望、どうしたの?」


「俺を置いて勝手に帰るなよ。一緒に帰ろうぜ」


「うん。いいよ」


「今準備をするからちょっと待っててくれ」



 望も鞄を持ち、帰る準備を終えるとそのまま2人で教室を出た。



「せっかくこんないい天気なんだし、暇ならどこかに遊びに行かないか?」


「ごめん、望。今日は薫子さんが家に来るから、帰り道にスーパーで買い出しをしないといけないんだ。だからまた今度にして」


「スーパーなんて後でよればいいだろう? それにそんなにそわそわして、何でそんなに焦ってるんだよ?」


「今日は僕だけじゃなくて、莉音も一緒にいるんだよ。莉音の事だから、昇降口で待ってるはずだから早く行かないと」


「出た!! 海の悪い病気。シスコン!!」


「僕はシスコンじゃないよ!!」


「じゃあシスターコンプレックスだな。相変わらず、お前は莉音ちゃんの事が好きなんだな」



 莉音の名前を出した途端、望がひいたのがわかった。

 眉間に皺を寄せて、あからさまに不機嫌な表情をする。



「自分の妹と毎日一緒に昼飯を食べて、あまつさえ登下校を共にしている奴のどこがシスコンじゃないなんて言えるんだよ」


「仕方がないだろう。最近物騒なんだから」


「物騒? 何かあったっけ?」


「望、知らないの!? 最近この近辺で魔獣の出現が頻発していること!?」


「あぁ、そういえばそんなこと親父が言ってたな」


「思い出すのが遅いよ」



 ここ最近のニュースの中では、豪華客船の乗客失踪ニュースの次に来るぐらいのトップニュースである。

 新聞でも表紙には書いてないけど、裏面には必ず載ってるほどのビッグニュース。

 それを知らないなんて、望はどうかしている。



「でも魔獣の出現は今に限ったことじゃないし、それこそ日本各地で起っていることだろ? 海の心配しすぎなんじゃないか?」


「そんなことないよ。ここ1週間に関東‥‥‥いや、東京近辺で魔獣の目撃情報が多数されているんだ」


「えっ!? そうなの?」


「そうだよ。話では街の見回りに割く人数を増員して、警戒を強めているみたい」


「そんなことにまで発展していたのか。全く迷惑な話だな」


「そうだよ。よくニュースでそのことについて話してるけど、望は見てなかったの?」


「あ~~、俺テレビってバラエティー番組しか見ないから」


「たまにはニュースも見た方がいいよ。知っておいた方がいい重要な情報も載ってるから、1週間に1度ぐらいは見るように心がけよう」



 望はたまに魔法学園学園長の息子なのかと疑う程、世間の情報に疎いことがある。

 特に魔法関係の事情なんて、僕よりも知らないことが多くて驚いてしまう程だ。



「大丈夫だって。俺には海っていう友達から色々な情報が聞けるから、そんな些細な情報なんて別に把握しなくてもいいんだよ」


「僕をあてにしないでよ」



 僕の肩を叩いて望は誤魔かしているけど、そうはいかない。

 この様子だとたぶんこれからも望がテレビのニュースを見ることは未来永劫ないだろうな。



「改めてのお誘いだけど、これから街に遊びに行こうぜ、海」


「だから僕は無理だって」


「固いこと言うなよ」


「だから莉音がいるから無理だって」



 それからも僕と望は不毛な押し問答をしながら廊下を歩く

 結局折衷案として望がスーパーの買い物について行くことが決定し、何故か莉音が不機嫌になるのだった。



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