第8話 神童の憂い
昼休みが終わり午後の授業、この日は実戦形式の魔法の練習を行う予定となっていた。
僕達生徒は屋外にある特別練習場で、先生の指導を受けてる。
今も僕達の目の前で1人のクラスメイトが、魔法を発動させようとしていた。
「いいですよ。そのまま腕に力を集中してください」
「こう‥‥‥ですか?」
「そうです。いい調子いい調子。そのまま頭の中で炎の弾を浮かべて、それを外に放出するイメージで魔法を使ってください」
「わかりました。ファイアーボール!!」
僕達の目の前でクラスメイトが魔法を放つ。放った魔法は30m先にある的に当たり、そのまま的を燃やし尽くすのだった。
「エクセレント! その感じで練習すれば今以上に上手くなりますよ」
「ありがとうございます」
「そしたら次の人。こっちに来てください」
「はい」
次のクラスメイトが先生の所へと行く。そして先程と同様に魔法の詠唱を始めた。
「みんなすごいな。魔法が使えて」
魔法の授業時、魔法が使えない僕はクラスメイトの集団から離れ別の場所で見学をしている。
練習場の端の方で体育座りをしながら、クラスメイトが魔法を使うのを眺めていた。
「僕も魔法が使えたらな」
試しに持っていた石を媒体にして、魔法を使おうとするが何も起きない。
石に炎が宿るどころか、発火の減少すら起こらなかった。
「失敗か」
「物を媒体にして、魔法を起こそうとしたのか。小学生がやるような事を何で今更やってるんだ?」
「望!?」
「よう海、元気にやってるか?」
「どうしてこっちに来たの!? まだ授業中でしょ!?」
「あんな授業どうだっていいんだよ。それよりもその様子じゃ、まだ魔法は使えないみたいだな」
「うん」
手元で握っている石を見て、僕が魔法が使えなかったことを悟ったのだろう。
もしかすると望はそのことに気づき、心配して僕の所に来たのかもしれない。
「他の媒体を使っても駄目なのか? 石以外にも鉄とか紙とか色々あるだろ?」
「どれも駄目。一番魔法の媒体にしやすい石で駄目だったんだ。何を使っても魔法は使えないよ」
通常魔法は何かを媒体にして行う。今僕が持っているような石や屑鉄、中には剣や銃等に魔法を付与して戦うものもいる。
そしてある程度レベルに達すると、何の媒体もなしに無詠唱で魔法を使うことができる。
そのレベルまで行ければ国からも重宝され、様々な政府の重要ポストに着くことも可能と言われていた。
「昔は無詠唱魔法も使えたけど‥‥‥今は全く使えない」
「全てはその
「うん。望のお父さんからはそう言われてる」
眼帯で覆われた僕の右目。この右目のせいで僕は魔法を使えないらしい。
理由は詳しくはわからないみたいだけど、自分を神と名のったあのスーツ姿の男が埋め込んだ魔道具のせいらしい。
「その眼帯を外すことはできないのか?」
「外すことはできるけど、また
「そうか。それならしょうがないな」
望は僕の右目の秘密を知る、数少ない関係者だ。
だから無理に眼帯を取れとは言わない。この眼帯を取ると、僕がどうなるかわかっているから。
「僕の事はどうだっていいんだよ。そんなことより望はここにいて大丈夫なの?」
「あぁ、どうせみんなお姫様にくぎ付けだからな」
「お姫様?」
「月城七海だよ。海も知ってるだろ? さっき教室で怒られたんだから」
「月城さんか」
練習場の方を見ると、ちょうど月城さんが魔法を使おうとしている。
目を閉じ全神経を集中させている月城さん。そんな彼女の周りには数十個の炎の弾や氷の弾が浮遊していた。
「月城さんは凄いね。一度に複数の魔法を使うことが出来るなんて」
「あぁ。しかも別の系統の魔法を並列で、なおかつ無詠唱で出せるのはもはや才能だ」
「見て望!! 月城さんが魔法を使うよ」
月城さんが放った魔法は全て的に向かって飛んでいく。
その魔法は全て的に当たる。的になっていた柱は衝撃に耐えられなかったせいで根元から折れてしまい、そのまま倒れるのだった。
「エクセレント!! さすが月城さんね。天才だわ!!」
「やっぱり月城は凄いな」
「うん。先生の興奮している声が、こっちにまで届いてるよ」
興奮した先生が、月城さんの事をべた褒めしている声が聞こえてくる。
月城さんもそんな先生に何か言ってるけど、その声は僕の所までは届かない。
「狙った的には百発百中。しかも無詠唱魔法で発動までの時間も短い。先生達の間では100年に1人の逸材って言われてるぜ」
「そうらしいね」
「おまけにあの長い艶々とした黒髪でスタイルもよく超美人。どうすればあんな完璧超人が生まれるんだろうな」
「僕にはわからないよ」
月城さんは僕達が中等部に進学してから頭角を現し、それ以降新たな神童が誕生したと周りからはやし立てられていた。
天才、神童。それは僕があの事件に会う前に望から言われていた言葉だった。
「元神童さんも現神童さんの活躍に嫉妬しているのかな?」
「別に僕は月城さんに嫉妬なんてしてないよ」
「そっか」
「うん。だって僕には魔法を覚えることよりも、やらないといけないことがあるから」
僕と莉音の両親を殺して、魔法を使えなくした張本人であるスーツ姿の男。
あいつに復讐を果たすまで、何が何でも死ぬことは出来ない。
「次は黒柳君!! 黒柳君はいないんですか?」
「望、先生が呼んでるよ」
「ちっ、面倒くさいな。ちょっと行ってくる」
「頑張って」
「おうよ。月城みたいにみんなの度肝を抜かしてくるぜ」
僕にそう言い残して、望は先生のいる所へと向かう。
魔法が使えない僕は見学だから、その後ろ姿をただ見守ることしかできない。
「魔法か‥‥‥」
正直未練がないわけではない。昔は簡単に使えたものが使えなくなったんだ。後悔がないわけではない。
だけどそれ以上に僕は自分の家族を奪ったあいつを許せない。理由もなく僕の家族を奪ったあいつに絶対復讐してやると心に誓った。
「どんな手を使っても絶対見つけて、僕の手であいつを殺す」
手元にある石を強く握りながら、僕は決心を新たにしたのだった。
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