第7話 騒がしい昼休み
「今日のお昼はどこで食べようか」
「それなら私、行ってみたいところがあります!」
「行ってみたいところ?」
「はい! ついてきてください!」
教室を出た後、莉音に連れていかれた所はこの学校の中庭である。
生い茂る木々がブラインドになって日陰を作り程よく涼しい場所だった。
「どうでしょうか? 立地的には最高の場所だと思うんですけど」
「すごくいいね。こんな場所があったんだ」
「風が吹いて涼しいし、昼飯を食べるには申し分ないな」
「人も全然いないようだし、莉音はよくこの場所を見つけたね」
「はい! この前体育の授業をしている時に目をつけていた場所なんです」
「さすがは莉音だね」
「ありがとうございます。お兄様に褒められると嬉しいです」
ニコニコと嬉しそうに笑う莉音が近くに設置されていたベンチに座る。
僕も莉音の右隣りに座り、望が僕の左隣に座った。
「それではここでご飯を食べましょう」
「そうしようか」
僕は持って来た弁当箱を開けた。
弁当箱の中身は唐揚げに玉子焼きにアスパラの肉巻き等、僕の好きなメニューがたくさんはいっている。
「おいしそうだね」
「本当ですね」
「これって莉音が作ったの?」
「はい! 今日は薫子さんがいなかったので、腕によりを込めて作りました」
「そうなんだ」
「何かお気に召さないものがありましたか?」
「いや、僕の好物ばかり入っていたから本当に薫子さんが作ったのかなと思って」
薫子さんが作ってくれたなら、もっと栄養を考えた和風テイストの物になるだろう。
例えば唐揚げだったらそのまま弁当に入れるのではなく、野菜を取り入れた甘酢あんかけという風に一工夫を入れるはずだ。
「えへへ。お兄様に喜んでいただけるように、がんばりました」
「全く、莉音ちゃんは本当にブラコンだな」
「むっ!! そういえば望君はここに呼んでいないんですけど、何でいるんですか?」
「連れないことを言うなよ。俺と海は小さい頃から一緒にいる間柄なんだ。だから別に一緒にいてもおかしくないだろう」
そう言って僕と肩を組む望。そんな僕と望が肩を組んでいることが不満なのか、隣にいる莉音は頬を膨らませていた。
「望君はずるいです。いつもいつもお兄様と仲良くしていて」
「これは男だけの特権だろ? それより莉音ちゃんに聞きたいことがある」
「何ですか?」
「さっきの話に戻るけど、莉音ちゃんは何で俺達の教室に来たんだ?」
「それはもちろんお兄様と一緒にお昼ご飯を食べたかったからです。朝もそう話したじゃないですか?」
「それなら自分の教室で待ってればよかっただろ?
「それは‥‥‥」
「以前もうちのクラスに来た時、安広達に絡まれてたよな? あんな怖い思いをするとわかってて、何で来たんだ?」
そう。実は莉音が安広君に絡まれたのは今回が初めてではない。
今回同様に僕とお昼ご飯を食べようと僕のクラスを訪ねた時に、安広君に捕まったことがあった。
「あの時はたまたま先生が近くを通りかかって仲裁に入ってくれたから助かったけど、どうしてこんな危ないことをするんだよ?」
「あうぅ‥‥‥」
「そうだよ莉音。別に僕達と食べたかったら教室で待ってればいいじゃん」
先程まで笑顔だった莉音の顔が徐々に曇っていく。
それは恥ずかしがっているというより、いじけているように僕には見えた。
「だって‥‥‥」
「だって?」
「だって‥‥‥こうでもしないとお兄様は私と一緒にお昼を食べてくれないから」
そういえば莉音はこういう子だった。
僕があまりかまってあげないと、こうして自分から行動を移してしまう。
莉音の事だ。きっと学校で僕とあまり会えなかったことが寂しかったのだろう。
だからこうして実力行使に出たに違いない。
「わかった。僕が悪かったよ」
「お兄様?」
「今度からは一緒にお昼を食べよう。次は僕達が莉音のクラスに行くから、そこで大人しく待っててね」
「ありがとうございます、お兄様!」
満面の笑みを浮かべる莉音を見ると、僕の中にあった罪悪感が薄れていく。
どうも僕は莉音に弱い。自分でもわかってはいるけど、こればかりは直しようがなかった。
「このシスコン」
「望!? ボソッとした声でそんなことを言わないでよ!!」
「だってどう見たってそうとしか見えないだろう」
「失礼な。僕はただ莉音の事を大切に思っているだけだよ」
「それがシスコンだって言ってるんだよ。全くこの兄妹は、本当に似た者同士だな」
あきれ果てる望とは対照的にニコニコと笑う莉音。
どうやら莉音にとって、さっきの僕の回答がお気に召してくれたみたいだ。
「そしたら明日も教室で待ってますね」
「ちょっと待って、莉音」
「なんですか? お兄様?」
「僕と一緒に昼ご飯を食べるのはいいけど、毎日一緒に食べるのはやめよう」
「えぇっ!? 毎日食べてくれるんじゃないですか!?」
「莉音だってクラスに友達がいるだろ? 僕達と食べてるだけじゃなくて、自分の友達を大事にしてほしいんだ」
僕や望との関係だけじゃなくて、莉音にはクラスにいる自分の友達の事も大事にしてほしい。
こうして僕と一緒に食べてくれるのは嬉しいけど、莉音には学生生活をもっと満喫してほしかった。
「お兄様の意向はわかりました」
「わかってくれたならよかった」
「そうしたら週に4日は一緒に食べましょう」
「ちょっとそれは多いよ。週に2日ぐらいじゃ駄目かな?」
「駄目です!! それじゃあ少なすぎます!!」
「それなら間を取って、3日でいいんじゃないか?」
「3日か」
3日ならまだ許容範囲だろう。本当は莉音が友人達と親交を深める為にもっと時間を取ってほしいけど、莉音の意見も組んで妥協するならこの辺りが妥当かな。
「莉音ちゃんはどうだ? 2人の間を取って3日にすればいいんじゃないか?」
「わかりました。少々納得がいきませんが、3日でお願いします」
「海もそれでいいよな?」
「うん。僕もそれで大丈夫」
莉音が珍しく妥協してるのだから、僕も少しは妥協しないといけない。
望の言う通り、間を取って3日ぐらいが落としどころのように思えた。
「これで問題も解決したし、飯でも食べるか」
「そうですね」
「早く食べないと昼休みが終わっちゃうよ」
弁当箱に手を付けようとすると、隣から視線を感じる。
視線のある方に顔を向けると、望が僕の弁当箱をじーっと見ていた。
「どうしたの? 望? そんなに僕の弁当箱ばかり見て」
「海の弁当は相変わらずうまそうだな。1つもらっていいか?」
「駄目です!!」
「何で莉音ちゃんが答えるんだよ」
「だってこれはお兄様の為に私が作って‥‥‥あぁ~~!! お兄様の為に作ってきた唐揚げ!! いきなり取らないでください!!」
「いっぱいあるんだから少しぐらいいいだろう。けちけちするなよ」
「いっぱいないですよ!! 望君はいつもそうやって好き勝手して‥‥‥」
莉音と望が口論をする中、僕は自分のお弁当を食べ進める。
ここで仲裁に入ったとしても、2人の口論が激しくなることは知ってるのであえて黙っておく。
「そもそも望君は自分の分を持ってきているのだから、それを食べるべきです!!」
「コンビニの総菜パンだけじゃ味気ないんだよ!! 少しぐらいわけてくれてもいいだろ!!」
「あぁ、今日もいい天気だな」
2人の口論をBGMに莉音が作ったお弁当食べる。
こうしていつもより少しだけ騒がしい昼休みが過ぎていくのだった。
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