第6話 落ちこぼれの魔法士

「おっ‥‥‥‥‥海君!!」



 僕達を見た莉音は花が咲いたような微笑みを浮かべ、僕に駆け寄ってくる。

 そして手元にある弁当箱をもったまま僕の腕にしがみつき、そのまま背中に隠れてしまう。



「だから僕達の教室に来なくていいっていつも言ってるだろ?」


「だってこの時間が待ちきれなかったんですもの。早く海君に会いたいから」


 

 莉音にそう言われると何も言えなくなる。嬉しそうな表情をする莉音を前にすると、僕も怒るに怒れない。

 つくづく莉音に甘いなと反省するのだった。



「おいおいおい!! 人前でいちゃいちゃしてるんじゃねぇよ!!」



 嬉しそうな莉音の様子とは裏腹に、目の前にいた男達が僕の事を睨みつけてきた。

 その数は総勢4人。特に莉音と口論をしていた真ん中の男が1番怒っているように見えた。



「何だ、誰かと思ったらまたお前かよ?」


「それは僕のセリフだよ、安広君」



 安広康生。彼は学年でも1、2を争う程のイケメンである。

 茶髪の大人びた風貌から、学年の女子からの人気が非常に高い。クラスでも僕達よりカーストが上の中心人物である。



「莉音ちゃん。何でそんな魔法も使えないなんかの所に行くんだよ。そいつと付き合っていても得なんてないぜ」


「お‥‥‥海君は落ちこぼれなんかじゃありません!!」


「落ちこぼれだろ? わ、使わ、この学校のお荷物じゃん。よくのんきにこの学校にいられるな。追放されていてもおかしくないだろ」


「そうだそうだ。この学校はお前の介護施設じゃないんだぞ」


「おい、お前等!! さすがに言っていいことと悪いことが‥‥‥!!」


「望、やめて。僕は大丈夫だから」


「でも‥‥‥」


「安広君が言ってることは全て本当だから。そんなに過剰反応しなくていいよ」



 魔法が使えないのも、右目が使い物にならないのも本当のことだ。

 正確には僕の右目は普通に使うことができるけどによって望のお父さん、この学園の学園長に使用することを禁じられている。



「僕は確かに魔法は使えない落ちこぼれだよ。でも、人が嫌がってることをするのはいけないことじゃないのかな?」


「嫌がってるんじゃない、照れてるんだよ。な、莉音ちゃん?」


「違います!! 私は貴方達と話をしたくありません!!」


「っつ!! 莉音ちゃんはそいつに騙されてるんだよ!! 一体その男にいくら積まれたんだ!!」


「お金なんて積まれてません!! 私は海君のことが大好きだから一緒にいるんです!!」


「この‥‥‥人が大人しくしてれば調子にのりやがって‥‥‥」


「やめなさい!!」



 クラス中に響き渡る声。その声に僕達だけでなく、安広君達も振り向く。



「女の子が嫌って言っているのにしつこく迫って。あまつさえ魔法を使おうなんて、言語同断だわ!!」


「月城‥‥‥これはちょっとした冗談だって‥‥‥」


「冗談? 貴方が今魔法を使おうとしたのも冗談なの?」


「おっ、俺がそんなことするわけないじゃん!?」


「悪いけど、私の目はごまかせないわよ。今貴方の右手に炎の弾を出したところを見たからね」


「うっ!?」


「あれは間違いなくファイアーボールね。例え初等魔法でも学校で先生の許可なく魔法を使うと厳罰に処されるのは、貴方も知ってるわね」



 月城さんの追及に安広君達は何も言えなくなる。

 眉をぴくぴくさせて、その場で固まってしまう。



「安広、ここはこっちの方が分が悪い。ここは一旦退こう」


「チッ、わかってるよ」



 近くにいた男子とひそひそと話した後、機嫌を悪くして教室の外へと出て行く安広君達。

 教室から出る際、僕と彼がすれ違った。



「覚えろてろよ、如月。このままじゃ終わらないからな」



 僕の耳元でそう言うと、安広君達のグループは教室の外へと出て行く。

 問題が解決したことで、僕はほっと胸を撫でおろした。



「ありがとう、月城さん。助かったよ。もし月城さんが来てくれなかったら、今頃大喧嘩に‥‥‥」


「助かったじゃないわよ。これは貴方達も悪いのよ」


「僕達も悪いの!?」


「そうよ!! 安広君が女癖が悪いって知ってるのに、何で貴方は女の子をわざわざこのクラスに呼ぶのよ!! あんなことが起こるってわかりきったことでしょ!!」



 そう。実は僕もこうなるんじゃないかと思っていた。安広君の女癖が悪いことは学校でも有名で、過去何人もの女性がその毒牙にかかっている。

 それでも安広君が人気なのは単にイケメンなだけでなく、魔法の扱いも上手い将来有望な魔法士だからだ。それに親もいい所の魔法士らしく、所謂サラブレットと呼ばれる存在だからだろう。

 その事にあやかって近づく人も多いと耳にする。



「お昼ご飯を一緒に食べるなら、女の子の教室に貴方達が行けばいいでしょ!! わざわざクラスに呼んで、揉め事にになるようなことをしないで!!」


「でも、これは‥‥‥」


「わかった、月城。これからは気をつける」


「ちょっ、望!?」


「(今は月城のいう事に従うんだ)」


「(でも、誤解されたままじゃ‥‥‥)」


「(この場を穏便に済ますにはそれしかないだろう。見ろよ、月城の顔)」


「(眉間に皺が出来て、目が吊り上がってる)」


「(あれは相当怒ってるぞ。今回の件は全面的に俺達が悪いんだし、一旦謝った方がいい)」


「(わかった)」



 確かに望の言う通りここでいい訳を続けていてもしょうがない。

 今日のクラスに行くと言い張る莉音を止めなかった僕達も悪いので、ここは大人しく月城さんには謝ろう。



「ごめん、月城さん。これからは気をつけるよ」


「わかればいいのよ。莉音ちゃんも次は気をつけるのよ」


「はい、わかりました。月城先輩」


「あれ? 莉音。月城さんと顔見知り‥‥‥」


「早く行くぞ、海。飯だ。飯」


「えっ!? でも‥‥‥」


「早くしないと昼休みが終わってしまいます。行きましょう、おっ‥‥‥海君」


「うっ、うん。わかった」



 望と莉音に引っ張られながら僕は教室を後にする。

 教室を出たあと後ろを振り向くと、月城さんが悲しそうな顔をしたような気がした。



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