第5話 人間と魔獣
朝のホームルーム後、そのまま授業が始まり僕の学校生活が始まった。
ぼーっと授業を受けている間も時間は過ぎていき、現在は4時間目の授業中である。この授業も佳境に入り、もう少しで莉音と過ごす昼休みが訪れる。
「莉音の奴、大丈夫かな?」
莉音がクラスに来ることで何かトラブルが起こるんではないかとハラハラする。
その事に一抹の不安を感じながら、僕は窓の外から見える景色を眺めていた。
「さてみなさん、魔法という新たな能力が見つかってから世界各国で魔法の解明をするようになりました。そして魔法に長けた人材の育成するために、世界中で魔法士の育成機関が作られたことは知っていますよね?」
「そのせいで世界のどんな小さい国であっても、優秀な魔法士1人いれば国力がひっくり返るって言われているんですよね?」
「そうです。そのせいで世界は緊張状態になり、第3次世界大戦が起こりそうになりました。だけどそれは起こらなかった。その理由を‥‥‥相馬さん。答えて下さい」
「はい! 魔獣が出現したからですよね?」
「正解よ。この魔獣は形も様々で、猪のような動物の形をしたものから人間のような形をしたものまで様々な形態の魔獣が今までに確認されているわ」
「先生、今魔獣が人間の形をするって言いましたけど、どうやって本物の人間と見分けるんですか?」
「いい質問ね。それは体の色よ。魔獣は人間とは違い紫色をしていて、目に生気はないの」
「映画とかで出てくるゾンビみたいですね」
「ゾンビとは少し違うわね。魔獣は知能があるから、走ったり飛んだりできるし、中には集団で行動するものまで存在するわ」
「集団で行動するって、人間と同じじゃないですか!!」
「そうよ。魔獣は危険だから基本的には近づかない事。それと魔獣は動物や人間を関係なく食べるから、出会ったらすぐ逃げなさい。食べられてしまうわよ」
いつもと変わらない授業風景。この話も歴史の授業がある度に何度も教えられていた。
実際魔獣という生物は人間と同じで脳や心臓を破壊すれば簡単に死ぬけど、僕達より数倍力が強いので、出会ったらすぐ逃げるように僕達は教えられていた。
「先生、質問です!」
「はい、相馬さん。どうしたの?」
「魔獣の話になるんですけど、そもそも魔獣って一体何者なんですか?」
「それはわからないわ。どうして魔獣が世界中で発生したか、その生態はいまだに解明されていないの」
「怖い話ですね」
「そうよ。だけど魔獣は魔法が生まれた次の年に初めて確認されたわ。そして世界中で魔獣が大量に発生したの。その魔獣達に対抗するために、世界中の国が同盟を作ることになったわ」
「有名な話ですよね」
「そうよ。魔獣は毎年集団でどこかの都市を攻め込んでいるっていうニュースもあるぐらい有名な生物になったわ。日本でも9年前に魔獣が起こした事件があったわね。誰か覚えている人はいる?」
「はい!!」
「はい、安広君」
「9年前魔獣が日本の主要都市を襲って、それを軍が撃退した事件ですよね?」
「正解よ。東京、名古屋、大阪、福岡。各主要都市を落とそうと海から上陸してきた事件」
「海南事件」
「そうよ。この事件では数多くの魔法士が出動し、魔獣を撃退したの」
「世界中にも知れ渡ったぐらい、この事件は有名ですよね?」
「そう、ここ近年で魔獣が起こした大規模な事件だからね。だけどこの戦いで主要都市を防衛したことにより、日本の魔法士が優秀だって世界中で証明されたわ」
「すげーー!!」
「日本の魔法士って最強じゃん!!」
「皆さんもこれからその魔法士の一員になるんですから、頑張って下さいね」
「はい!!」
元気に返事をするクラスメイトとは対照的に、その話は僕の心に暗い影を落としていく。
先程先生が話した事件、それは僕にとってあまり思い出したくない事件だからだ。
「(あの事件は僕達が家族を失った後に起きた出来事だ。だからあまり思い出したくはない)」
莉音以外の家族を失った僕にとって、2年連続で起きた辛い出来事でもある。
あの時僕は当時望の家のお手伝いだって薫子さんに手を引かれて、望と莉音と共に逃げた。
幸い望のお父さんの計らいで首都のシェルターに入れてもらったおかげで難を逃れることができた。
だがあの時の恐怖は忘れない。震える莉音の体を優しく抱き留め、魔獣がシェルターに入ってこないようにひたすら祈っていた事を一度も忘れたことはない。
「(あの事件のせいで、多くの人がなくなったはずだ。それはきっとこのクラスの中にもいるはずなのに、何でこんなに盛り上がれるのだろう)」
それが本当に不思議だ。軍の関係者や一般人合わせて数千人が亡くなった悲惨な事件なのに、何故ここまで盛り上がれるのか不思議だ。
現に望の顔色も晴れない。周りが盛り上がる中、望の他にも暗い顔をする人がいた。
「(あれは‥‥‥月城さん? 何でこんな表情が曇ってるのだろう)」
あの女の子は学校の中でも将来を渇望されている有能な魔法士なはずだ。その子が9年前の事件を聞いて、暗い表情をしている。
「(あの子に一体何があったのだろう)」
それはわからない。だけど僕達以外にも魔獣に因縁があるように思えた。
「あの事件では多くの犠牲を払ったけど、無事魔獣は撃退できたわ。特に我々東京支部は1番激しい攻撃にあったけど、国民の英雄と呼ばれている月城大佐のおかげ都市を防衛することに成功したの」
『キーンコーンカーンコーン』
「あら? もうこんな時間ね。きりが悪いけど、今日のここで授業は終わりよ。日直の人、号令お願いね」
「はい!」
その後先生への挨拶が終わり、先生は教室を出ていく。
僕はあまりに退屈な授業だったため、ぐったりとしてしまう。
「海、昼飯でも食べに行こうぜ」
「うん。でも莉音がうちのクラスに来るっていうから待ってないと」
「その莉音ちゃんだけど、もうすでに来ているみたいだぞ」
「えっ!?」
「あそこをみろよ。あそこ」
望が指を差した方を見ると、教室の出入り口前に人が集まっている。
目を吊り上げて怒る莉音の事を見ると、どうやら誰かと言い争いをしているようだ。
「
「そんなこと言ってないで、早く助けに行ってやれよ。王子様」
「わかってるよ。それと僕は王子様じゃない」
僕と望は立ち上がり、教室の入口へと行く。
そこには予想通り莉音がいて、予想通り誰かと口論をしているのだった。
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