第4話 大切な妹
「時間は8時15分か。何とか間に合ったようだな」
「だから言ったじゃん。そんなに急がなくても遅刻しないって」
学校の正門前に着くと、望が自分の腕時計を確認する。
僕達の学校は8時30分までに教室にいれば遅刻扱いにはならないので、時間的には全然余裕だった。
「そうはいっても8時過ぎに家を出れば誰だって焦るのに、のんきに歩いているお前達兄妹の方がおかしいだろ」
「そうなのかな?」
「私達の家から学校までは片道15分ぐらいの道のりなので問題ないですよ。むしろ望君が慌てすぎだと思います」
「莉音ちゃんまで。本当にお前達は兄妹揃ってお気楽だな」
「失礼ですね。私達はお気楽ではなく、心にゆとりがあると言ってください」
「どっちも同じようなものだろ」
僕と莉音の事を交互に見た望はその場でため息をついた。
そしてその状態のまま昇降口まで歩いて行き、外履きから内履きに靴を履き替える、
「私は反対の教室なので、ここでお別れです」
「わかった。気をつけてね、莉音」
「はい。それではお兄様、またお昼に教室の方へ伺います」
「別に来なくても大丈夫だよ。僕達の事は気にしないで、莉音も教室の友達と一緒にお昼ご飯は食べてていいよ」
「いえ、そう言うわけには行きません。とにかく後で伺いますので、絶対に教室で待ってて下さいね」
そう言うと莉音は僕達と別れて、自分の教室へと向かう。
僕と望はその背中を黙って見送った。
「相変わらず莉音ちゃんはブラコンだな」
「僕としてはそろそろ兄離れをしてほしいんだけど」
「それだけ海の事が心配なんだよ」
「僕の事なんて心配しなくてもいいのに」
「そういうなよ。両親を失って、心の拠り所が海しかいないんだ。俺を含めて他の奴の事はどうでもいいけど、莉音ちゃんだけは大切にしろよ」
「そんなこと望に言われなくてもわかってるよ」
僕にとっても莉音は唯一の肉親なんだ。これからどんなことが起こったとしても、莉音だけはこの手で守ろうとあの事件の時に誓った。
だからどんな手を使っても莉音は僕が守る。例えこの身がどうなろうとも。
「それにしても莉音ちゃん、可愛くなったな」
「そう?」
「そうだよ。高校生になってスタイルは格段に良くなったし、銀髪のサラサラのミディアムヘアーにお人形のような整っていて可愛い顔。見た目だけで言えばどこかのモデルよりも可愛いと思うし、彼氏がいてもおかしくないぞ」
「莉音に彼氏か」
「おっ! お兄ちゃんも莉音ちゃんに恋人が出来たことを心配しているのか?」
「別に心配してないよ。むしろそろそろ兄離れをしてほしいと思ってる。だけど‥‥‥」
「だけど?」
「もしその彼氏が莉音を泣かせるようなことをしたら、そいつが泣いて謝っても絶対に許さないかな」
「はいはいはい。妹がブラコンだっただけじゃなくて、こっちの人もシスコンを患っていました」
「なっ!? 僕はシスコンじゃないよ!!」
「十分シスコンだよ。莉音ちゃんを泣かせたら絶対に許さないって言っている時点で、海も十分過ぎる程のシスコンだ」
「違うよ!! 莉音には莉音の人生があるんだからいつまでも僕にとらわれてほしくないけど、今の話はそれとは全く関係ない話だから!!」
いくら話しても望は取り合ってくれない。それ以上に莉音の事を話せば話す程、僕がどんどんシスコン認定をされて行く始末である。
「わかったわかった。お前はいいお兄ちゃんだね。これでいいだろう」
「良くない!! 大体いつもそうやって望は話を振って置いて、最後は投げやりに‥‥‥」
「おっと。話している内に教室に着いたぜ」
「本当だ」
莉音の事について話している内に、いつの間にか教室の前についたようだ。
廊下にもまだ人がまばらにいるせいで、凄くにぎやかだった。
「海の莉音ちゃんへの思いはよくわかったから、早く教室に入って授業の準備をしよう」
「‥‥‥わかった」
「大丈夫だよ。お前達兄妹の絆の強さは、ずっと2人を見て来た俺にはわかってるから」
「望」
「俺も莉音ちゃんの事は血は繋がってないけど、自分の妹のように思ってる。もしそんな奴が現れたら、一緒に殴りにいこう」
「そうだね。その時は協力をお願いするよ」
「任せとけって。そいつに目に物をみせてやろう」
望が作った拳に自分の拳をこつんとあてた後、僕達は教室の中に入る。
そしてそのまま窓側の自分の席に移動する。
『キーンコーンカーンコーン』
「もうすぐ朝のホームルームだな」
「うん」
「じゃあ俺は自分の席に行くから。また後でな」
「うん。また後で」
望は僕から離れ、廊下側の自分の席へと向かおうとする。
今望と話していて思ったけど、意外と望も莉音の事を気にかけてくれているようだった。
「なんだ。望だって人の事言えないじゃないか」
「海、今何か言ったか?」
「何も言ってないよ!? それよりも早く席に着かないと先生に注意されるよ!!」
「それもそうだな。早く俺も席に戻るか」
今度こそ自分の席に戻る望を見届け、僕は心の中で『このシスコン』とつぶやきながら自分の席に座る。
その直後僕達の担任が教室の扉を開き、朝のホームルームが始まるのだった。
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