第9話 ナニワの狙い

「お前、そんな『詐欺』にあっさり騙されたの?」

「詐欺? どういうことだ」


 きょとんとした顔で僕を見るフリーゼに、僕とミセリアは唖然としてしまった。


「……」

「……」


 今の話は誰がどう聞いても詐欺だろう。


 飛び込んできた男もナニワの手の者なのは明確だ。

 というかフリーゼ以外だったら引っかかるわけがないほど杜撰な詐欺だと僕は思う。


 ナニワという商人はフリーゼからギルドハウスを奪うために彼女の事をよく調べていたのだろうことがわかる。

 しかし何故だ。


 ナールの町は今でも俺の前世の頃とあまり変わっていないほど世間の流れから取り残されている町だ。

 一応人は住んでいるが、ほとんどは先祖代々この地に住んでいて、畑や狩猟。

 昔も偶に来る物好きな旅行客や行商人以外は立ち寄る人も少なかった所だ。


 昔と違うところは『魔王城』を見に来る観光客がそれなりにいるらしいが、それも観光地と呼ぶには弱い。

 せめてあの城が完成していて、きちんとした観光施設として整備出来ているなら別だが、今ではあの廃墟まで続く道も森の中に埋まって近づくのにもかなりの危険が伴うとミセリアは言う。

 

「ナニワにとって、ギルドハウスを奪うことで得られる何かがあると言うことか?」

「何かって何だ?」

「そんなの僕が知るわけ無いだろう」


 僕は必死に頭を働かせながら歩みを進める。

 そしてギルドハウスがもう少しで見えてくる所で僕は立ち止まった。


「アルマさん?」

「どうしたスパーダ」


 突然足を止めた僕に、先へ進みかけていた二人がいぶかしげに振り返る。


「もしかして……いや、でもだからといってどうして……」


 俺は思いついたことの裏付けを取るべくフリーゼに質問した。


「フリーゼ。お前さっき借金の形に『ナールギルドの資産』を充てたと言ったよな?」

「その通りだが?」

「そしてお前もミセリアも、それはナールギルド唯一の持ち物であるギルドハウスのことだと思ってるわけだ」


 俺は少し顔を青ざめながら言葉を続ける。


「でも違うんだ」

「違う?」

「どういう意味ですか? アルマさん」


 フリーゼがナニワと結んだ契約。

 それは借金を期日までに返せない場合は『ナールギルドの資産』をその代わりにナニワが処分して返済に充てるというものだ。

 フリーゼたちはナールギルドの資産がギルドハウスと、多く見積もってもその中にある家財のようなギルドの道具だけだと思っている。

 しかし『ギルドの資産』というのはそれだけだろうか?


「フリーゼ。僕の考えが間違ってることを祈るけど、もしかするとナニワの目的はギルドハウスじゃないかもしれない」

「ギルドハウスじゃない?」

「他には何もお金に成りそうなものはあそこにはありませんよ。私、時々掃除をして上げてるからよく知ってるんです」

「ちがう、そうじゃない」


 俺はフリーゼの顔を見上げて自分の考えを伝えることにした。


「フリーゼ。お前が契約した内容は『ナールギルドの資産全てと引き換え』だ。そしてナールギルドの資産はギルドハウスだけじゃない」

「そうなのか? 私が知らないものでも?」

「いや、お前は誰よりもよく知ってるよ。なぜなら――」


 ゆっくりと俺は右手を動かすと、その人差し指を目の前の間抜け面に向け告げた。


「ナールギルドの資産の中にはギルドのメンバーであるお前も含まれているんだからな」



 

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