第7話 ナールと魔王城
トラベリアポータルの出口が開いた場所は町に入る門の少し手前で、木で作られた強度の低そうな壁に囲まれた全体像がよく見える。
100年以上ぶりに見るナールの町の姿。
と言っても100年以上も経った今、当時の面影は全く……。
「あれ? トラベリアポータルが進化したかな?」
「何を言ってるんだスパーダ?」
後から付いてきたフリーゼが、ポータルを出た所で立ち尽くし首をひねっている僕を見て不思議そうに尋ねた。
「いや、前世の記憶通りにトラベリアポータルの呪文を使ったはずなんだけどさ」
僕はナールとその周辺の山や森を眺める。
「魔法が進化したみたいで100年前のナールに辿り着いたみたいだ」
「な、なんだってー! 流石スパーダだな! 過去に戻る魔法なんて聞いたこともないものを発明するなんて」
「いや、別に発明したわけじゃなくて……」
「昔もスパーダは誰も知らない魔法を一杯発明してたからな。天才ってのはスパーダみたいなヤツのことを言うんだってリヒートもよく言ってた」
リヒートというのは前世で共に冒険者となった幼馴染みの名前だ。
まだレムリスを立ち上げる前、僕はリヒートとフリーゼ、それと数人の仲間たちと共に『レムリスの剣』というパーティを組んでいた。
そのレムリスの剣が当時所属していたギルドがあったのが目の前のナールである。
「……いやちょっとまって」
「どうしたスパーダ?」
僕はもう一度ナールの奥にある山を凝視する。
そして気が付いた。
「やっぱりここは100年前のナールじゃないみたいだ。昔と殆ど変わらないから勘違いしたけど、昔はあんなものはなかった」
「あんなものってどれだ?」
「後ろの山にあるあれだよ」
僕は肉眼でも見えるその建造物を指さした。
ナールの向こう側には高い山々が連なる山脈がそびえていて、山の向こうの地へ向かうには大きく迂回して行くしか無く、おかげでナールは国境沿いの町で有りながら他国からの侵略を受けることはなかった。
だが、逆にそのせいで国からも重要拠点とはされず、交易ルートからも外れているため貧しい辺境の町という状況から抜け出せていない。
その山の中腹に100年前には確実になかったものがあった。
「ん? 魔王の城か。たしかにあれがあると言うことは」
「ここは100年前じゃないってことだ。ナールが昔と全く姿形が変わってないから勘違いしちゃったじゃないか」
「なんだ。スパーダの新魔法じゃなかったのか。がっかりだな」
「期待させてごめんよ。でもまぁそりゃそうだよな」
僕は『魔王の城』を見ながら呟く。
「しかし話には聞いていたけど実物はかなり大きいな」
山の中腹に建つのは通称『魔王城』と呼ばれている建物で、30年ほど前に王国一の大商人だったハインス・ラキエという男が、その全私財をなげうって建て始めたものらしい。
しかし建築途中で彼は病で亡くなり工事は中断されてしまう。
その建築途中の建物はやがて森に飲み込まれ、一種異様な姿は人々の心に様々な妄想を抱かせた。
「最初にあれを見て『魔王城』と名付けた人はセンスあるよな」
この世界に魔王なんて神話の中でしか存在しない。
だけど遠くから見えるその建物は確かに『魔王城』と呼ばれるだけの異様。
僕は話に聞いていただけで実際には初めて見たそれに気を奪われていた。
そのせいでナールの方からやって来た人影に気が付くのが遅れ、その人物が大きな声でこちらに呼びかけるまで気がつかなかった。
「フリーゼー!」
若い女性の声に、僕は魔王城から声の主に意識を向けた。
フリーゼの名を呼ぶその少女は、大きく手を振りながらこちらに向かって駆けてくる。
年齢的には今の僕と大して変わらない位だろうか。
「知り合い?」
僕は隣のフリーゼに尋ねる。
「伝書バードで連絡をくれたミセリアだ。多分門兵に私が帰ってきたら連絡するように言ってたんだろうな」
彼女がギルドの隣に住む娘らしい。
フリーゼは箱を抱えたまま走ってくる彼女に向けて歩き出した。
「ミセリア。連絡もらったから急いで帰ってきたぞ」
「それにしても早いじゃない! まだ何日もかかると思ってたのに」
「それがな、このスパーダの――」
「フリーゼ! その話は後にして僕にその子を紹介してくれないか?」
フリーゼがトラベリアポータルのことを口にしようとしたのを、僕は慌てて止め、話の方向を変える。
脳筋エルフは油断していると秘密にしたいことすらペラペラ喋ってしまうから油断できない。
あとでちゃんと注意しておかねば。
「ああ、そうだったな。この娘はミセリアといって、前に言ったがギルドの隣に住んでいる」
「あ、えっと……はじめましてミセリアです。所でこの人は?」
ミセリアは僕に挨拶をした後、フリーゼに問いかけた。
「こいつはスパ――」
「僕はアルマ。フリーゼとは知り合いで、王都で久々に会ったんだ」
フリーゼは僕のことを前世の名前で呼びたいようだが、僕の現世での名前はアルマだ。
それだけは今世の両親のためにも譲れない。
「アルマさんですね。フリーゼと知り合いなのはわかりましたけどどうして一緒にこんな所まで?」
当然の疑問だろう。
いくら知り合いだと言っても、王都からナールまではかなり遠い。
近所まで一緒にという軽い話ではない。
「えっと……僕は……その……」
同じく、久々に会った人間がいきなりフリーゼに変わってギルドマスターになりましたなんて言っても信じて貰えるだろうか。
そんなことを考えていると、フリーゼが突然僕の背中を手のひらでバシッと叩くと、咳き込む僕を余所に勝手にミセリアに答えた。
「聞いて驚け。こいつが私がずっと探していたギルドマスターだ!」
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